刀剣界ニュース

人間国宝の新認定を望む。

途絶える。人間国宝。

文化財保護法に基づき、「演劇、音楽、工芸技術その他の無形の文化的所産で我が国にとって歴史上又は芸術上価値の高いもの」は無形文化財とされ、そのうちでも重要なものは重要無形文化財に指定されている。そして、連綿と受け継がれてきたその芸と技を高度に体得している人が重要無形文化財保持者、いわゆる人間国宝である。
七月に発表された今年度の各個認定は、歌舞伎立役の波野辰次郎(中村吉右衛門)氏と組踊音楽歌三線の西江喜春氏の二人のみで、工芸部門は日本刀も含めて皆無の異例なものとなった。
日本刀および刀剣研磨においては、認定制度の始まった昭和三十年以来、次の通り、途絶することなく、人間国宝が認定されてきた(敬称略、カッコ内は認定年)。

〈日本刀〉高橋貞次(昭和三十年) 、宮入行平(同三十八年) 、月山貞一(同四十六年)、
隅谷正峯(同五十六年) 、天田昭次 (平成九年) 、 大隅俊平 (同)。
〈刀剣研磨〉
本阿彌日洲(昭和五十年) 、小野光敬(同) 、藤代松雄 (平成八年) 、 永山光幹 (同十年)。

なお、関連する分野では、鐔などを製作した米光光正氏が昭和四十年、 「肥後象嵌・透」で認定されている。
認定年からわかるように、日本刀関連ではこの十三年間にわたって、人間国宝が生まれていない。本年三月、永山光幹氏が亡くなられ、前記十一人のうち健在なのは当組合顧問でもある天田昭次氏ただ一人となってしまった。さらに、保持者が皆無となった「刀剣研磨」は重要無形文化財の指定が解除された。

消滅しつつある日本の伝統に歯止めを

現状は、刀匠や職方の世界にとってのみならず、刀剣界全体にとっても、また日本刀の保存と伝統の継承の面でもゆゆしきものがある。
人間国宝の認定は、文化審議会の審議・議決を経て文部科学大臣に答申するという仕組みになっており、業界団体などが推薦できるようなものではない。
しかし、新たな人間国宝の誕生を希求する刀剣界の空気は何とか届けたい。われわれにとっての人間国宝は、刀剣界の象徴であるとともに、斯界発展の牽引力でもあるのだから。

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