刀剣界ニュース

日刀保ロシア支部「侍展」

 昨年六月、公益財団法人日本美術刀剣保存協会のモスクワ支部が設立され、十二月から今年一月末までモスクワ支部主催の第一回「侍展」が催されました。モスクワ支部長に就任されたアイストロフ・ユーリ氏より、設立に当たり日本側の事務的な手伝いをしてほしいとの要望があり、日刀保本部との連絡係として「侍展」に参加させていただきました。
 ロシアの古都サンクトペテルブルクで開催された展覧会には、会員の所有する刀剣二十振が鎌倉時代から現代刀まで時代別に陳列され、会場では会員が交代で見学者からの絶えることのない質問に答えていました。
 私のロシアの友人が四百年前の刀をロシアへ持ち帰り、知人に見せたところ、刀を見た知人は「君は愚かだね。日本人にだまされたことがわからないのかい。四百年前の刀(鉄)が、こんなに光っているわけがないだろう」と言ったそうです。日本刀に対してこのレベルの認識が常識となっている国なのですから、今回の展覧会は大いに意義があったと思います。
 ロシア人ディーラーがここ数年間に日本から持ち帰った刀剣は別として、戦前からロシア国内にある日本刀は、刀身の形から日本刀とはわかりますが、錆と朽ちこみがひどく、全く別の武器にしか見えません。
 モスクワ支部では、初めて日本刀を見るロシアの子供たちに光輝く宝石のように美しさに触れ、日本人には特別な思いがあって守り伝えてきたことを理解してもらい、なぜ特別なものなのかを説いていきたいと語っていました。
 日本刀を見て凄みがあり怖いと思う人もいますが、それ以上に、美しく吸い込まれるようだと言うロシア人がいます。日本刀を単なる武器・美術品として見るだけでなく、日本刀を持つことにより、自国にはない独自の精神文化を創り上げた神秘の国日本へ近づき、日本人の精神を受け継ぎ、自分のライラワークに生かしたいと願う方も多くおります。
 日本は近隣の韓国や中国とは平和条約を結んでいますが、ロシアとはまだ結んでおらず、近くて遠い国のイメージがまだまだ強いのは事実です。今経済が最優先のロシアは、本音を言わず、相互間の貿易のために険悪な事態を極力避けており、民間レベルの文化交流を進んで奨励しています。
 刀剣業界は、日本刀を通して日本とロシア両国間の一つの架け橋となり、相互理解の発展に貢献できると信じています。

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