刀剣界ニュース

風向計 其之八

 「アベノミクス」が掲げる三本の矢、すなわち、1,大胆な金融政策、2,機動的な財政政策、3,民間投資を喚起する成長戦略、は政権発足後半年ですべて放たれ、三本目の「成長戦略」は四〜六月の三カ月間にわたって三段階に及んで射られた。
 その結果、経済諸指標を見る限り、効果が確実なものであることが裏付けられてはいるが、今後も切れ目なく持続的に経済再生への対策、言うなれば次なる強い矢が放たれることが期待されている。
 日本経済とわが業界の再生策は勿論、同日には論じられないが、わが方には果たして射る矢はないものか。「アベノミクス」の成功例を組合の場合に置き換えて眺めてみよう。
 まず1,「大胆な金融政策」ということは、取引銀行である商工中金からの借り入れを増やし、交換会の立て替え払い金を増大させることや、組合が資金を借り入れして組合員に転貸する、いわゆる多数転貸を実施するということなどに当てはめることができる。
 交換会の立て替え資金は、現在の一カ月延べ払い制では極端に増大させる必要はないが、一カ月を二カ月延べ払いにし、それに伴って買い入れ限度額を増大させれば、今以上に立て替え払い資金は確実に増大する。延べ払い期日を延ばし、買い入れ限度額を増やせば、出来高は増加して歩金収入は増えるが、それだけリスクも増加するということになる。また、多数転貸も金利という形で組合に利益をもたらすが、リスクも当然あり、技術的にも困難であったため、平成三年以降は実施していない。
 2,「機動的な財政政策」も、金融政策ときわめて関連性が高い。例えば「大刀剣市」のような催しに資金を投入して規模を広げ、組合の認和度を高めるとともに売り上げの増大を図ることや、買い入れに関する情報発信量を増やし、組合への評価艦定の持ち込み来客者の増加を図るなどのことも考えられよう。
 組合の買い入れが増加すれば組合に売却利益が出るのと、組合員にとっては初見のウブ品を入手できるわけであり、リスクはないと言える。
 さて最も大切なことは、3,「成長戦略」の知恵を拝借できないかということであろう。
 成長戦略の第一弾は女性の活躍、第ニ弾は「世界で勝つ」をキーワードに規制改革や農業政策、第三弾は民間活力の爆発であった。
 女性の活躍については刀剣業界も数人の活躍を見ており、現在は組合の理事にも設立以来初めて女性が選ばれている。女流刀剣商が増えることにより刀剣の安全性や合法性もより浸透すると考えられるので、増加に向けての取り組みも必要であろう。
 第二弾の「世界で勝つ」ための規制改革と言えば、刀剣の輸出入手続きや、登録証の名義変更に関する規制緩和を強く訴えることが発展に直結するので、この点については組合執行部がどれだけ行政官庁やその機関との交渉能力を持つかが問われるところであり、成長戦略の要でもあろう。
 第三弾の民間活力の爆発ということは、組合で言えば主に若手を中心とする次世代を担う刀剣商の積極的登用ということでもあろう。年が若い、業歴が浅いということで、商売の規模も小さく、参加できる交換会も限られている有為の刀剣商に機会を与え、さらに商売以外にも組合活動における奉仕の充実感も体験してもらい、商いとともに人としても大きく成長するよう導くということが、将来の業界の成長には不可欠である。このように見てくると、金融政策・財政政策においてはリスクを伴うが、機動的な政策や成長戦略については、今後の努力によっては推進し得る可能性があり、比較的に副作用のない政策と言い得よう。
 「言うは易く、行うは難し」の言葉通り、行うには時間と人が必要である。国でそれらを担う人は総理大臣をはじめ、すべてが有給であるが、組合は無報酬である。成長・発展していくためには、報酬を支払ってでも有能な実務者の存在が必要であることは自明の理であり、成長戦略の可否は組合の場合、ここに懸かっていると言って過言ではない。組合員全員でその矢を射る方策を練るべきであろう。

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