刀剣界ニュース

俵国一博士の言葉

還暦過ぎても高額な保険金など一度も受け取ったことがないもので、今まで支払った掛け金を考慮すると、何かえらい損をしたような気持ちになるのですが、実際はそういう高額な保険金を受け取るような局面に遭遇しなかったことに、感謝すべきなのでしょう。
 
組合主催の大刀剣市も十年ほど前から損害保険に加入していますが、これは高額の刀装具の窃盗被害が発端です。
 
大刀剣市が回を重ねて広く認知されるに従い、入場者が増加し、特にオープニングの直後はお客様が怒濤のごとく入ってこられ、通路は身動きが取れない状態になります。不届き者にとっては格好の舞台です。
 
鐔・小柄・目貫などの刀装具はサイズが小さいこともあり、「なくなった」「盗まれた」という声は初期のころから聞いていました。対策として入場料を頂き、混雑の緩和を期し、保険加入で被害の補てんを目論見ました。
 
古美術品は、保険会社にとってとても扱いにくいものと推測できます。盗まれやすい、傷つきやすい、評価が曖昧である、盗まれたのかなくしたのか店主も判断できない場合がある、そして狂言の恐れもあります。
 
私の店でも動産保険に入ろうと保険屋さんに聞いたところ、できるものならかかわりたくないと思われるような保険料の提示を受けたことがあります。
 
およそわれわれが保険に入る動機は、家や店の火事、車での事故、ガンなどの大病ほか、人生の危機的状況の際の金銭的負担の軽減が目的です。
 
ビジネスに観点を置くと、店舗の火災、賠償しきれないほどの高額な品物の預かり、この商品が紛失・盗難に遭ったら店の屋台骨が揺らぐ―こういうとき保険の二文字を思い浮かべます。しかし、保険の契約の段になると、免責条項の多さと複雑さにとまどってしまいます。  先般、大刀剣市の開催期間中に加入する損害保険の説明会が行われました。気になる免責事項ですが、通常、立証が難しい「万引き」は不担保になるそうですが、大刀剣市の性格上、この不担保を外し、会期中は万引きも補償されるそうです。
 
気になるのは、今までの契約では、簿価が百万円以上は保険金支払い対象外ということです。このことを正確に認識していた大刀剣市実行委員は、果たしてどれだけいるでしょうか。
 
となると、該当の高額商品は三日間、ガラスケースから出すわけにいかないということになるのかな。特に刀装具は絶対出せない!でも、ケースから出して見せなければ売れないし…。
 
ホンネは、高額品を保険金支払い対象にして、と言いたいところ。同じ保険でも、長い人生に対応するものと、三日間の美術イベント対象ではずいぶん違うんだなぁ、と。「何を今になって悟って」と、出店者各位には叱られそう。  コスト・パフォーマンスからすればこんなものと割り切るか、個別に高額の損害保険を選択するか、それも自己責任ということでしょうか。

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