刀剣界ニュース

押し買いトラブル防止の新法公布   買い取り物品の返品義務が発生

 昨年来、金相場の上昇に伴って、個人の地金・貴金属アクセサリーなどの売却増加がニュースとなったことは記憶に新しい。
 一方、時を少しおき、貴金属などの「訪問購入」(先方に出向き、物品を購入すること)に関するトラブルが各所で発生した。消費者庁によると、電話勧誘による貴金属の買い取り訪問を受けて、強引に買い取りを迫るいわゆる「押し買い」の消費者生活センターへの相談が急増した(二十一年度↓二十二年度17・6倍、二十二年度↓二十三年度1・7倍)。ほとんどが女性や高齢者からで、本件の対策が急務となっていた。
 当初は、関係省庁、学者、弁護士等で「貴金属等の訪問買取に関する研究会」が持たれたが、その方向が「特定商取引法の改正」へ広がり、われわれ古物商に大きく関係する法案となった。
 この「特定商取引の一部を改正する法律」は、消費者保護の観点から、訪問販売による一定期間内における返品キャンセルを可能とした現行法に、原則として、すべての物品の訪問購入に関する取引を追加するものである。
 簡単に言うと、お客さまから査定依頼があり、出向いた古物商が訪問先でいったん購入に合意を受け、代金を支払い、物品を搬出しても、(場合により)八日間以内にお客さまから「やはり売るのはやめたい」と言われたら、キャンセルに応じる義務があるということである。
 さらに、第三者への引渡し通知義務も発生する。平たく言うと、訪問購入して八日間以内に一般客相手や市場で売却する際、例えば「これは三日前に買ったので、あと五日以内に返品要請があったら返してください」と言う義務があるということだが、現実的に、売れにくくなる案内はし難い。
 とは言え、平成二十四年八月二十二日に公布され、この日から起算して六カ月を超えない範囲内に施行される。返品を拒むなど違反があれば、処分の対象である。八日間保管するしかないのだろうか。
 消費者庁は、関係省庁を通じて除外事項の申し入れを受け付けるが、検討された事項が反映される保証はないと言う。
 美術業界では、申し入れの検討もあるとも聞く。消費者庁では随時、進行状況をホームページで公表していくそうであるが、紙面の都合上、本紙での詳細記載には限度があるので、ぜひ各自で確認してほしい。  ごく一部のマナー違反業者による、強引で脅迫じみた取引から弱者を守ることは必要である。しかし、その返品リスクを考慮した業者が厳しい査定をすれば、結果として消費者の利益が損なわれてしまうだろう。また、訪問を躊躇する業者が増えれば、鎧よろいを運べないお年寄りや、数振の刀剣を運ぶことをためらうご婦人など、困る方も出るであろう。
 本来守られるべき人が、不利益を被らない、 塩あんば い梅の良い処方があればと思う。施行期限の来年二月まで、注視していきたい。(伊波賢一)

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