刀剣界ニュース

報告「清盛と頼朝の時代の刀展」

今回の大刀剣市の特別展示のテーマは「清盛と頼朝の時代の刀」でした。
 清盛というと、私がまず連想するのは仲代達矢さんです。子供のころ見たNHK大河ドラマ「新・平家物語」の仲代さん演ずる清盛と一門は、華やかな大鎧
を着し、腰に半月のように曲がった刀を帯びていました。「清盛のころは馬に乗るからね。反りが高い方が使いやすかったんだよ」。今は亡き父の言葉が思い出されます。
 そうした反りの高い美しい太刀を、公益財団法人日本美術刀剣保存協会および組合員の全面的な協力により展示することができました。そして、私が一点一点に心を込めて解説文を書かせていただきました。
 無論、当日までは見ることができないので、『日本刀大鑑』や『重要刀剣図譜』などを参照し、また来場者が必ずしも刀剣の専門家ばかりではないことに配慮し、「金線・砂流しかかり」などの専門的な説明のみではなく、読む人が歴史に思いを馳せて楽しめるように、時代背景もたっぷり盛り込みました。
 一方、源平合戦図の刀装具も展示されました。都落ちする忠度が忘れ形見の和歌を藤原俊成に託す場面、宇治の急流をものともせずに渡る坂東武者畠山重忠の雄姿、一の谷で討たれた敦盛の悲劇、牟礼高松の義経の晴れ姿と嗣信の最期、その義経が乱後に兄頼朝と対立して没落していく様子、平家全盛期に宮廷に仕えていた女性の悲運……。狭い空間に緻密な鏨使いで表現されたものは、諸行無常の世界観、日本人の美意識を感じさせる逸品ぞろいでした。
 背景に飾られた『平治物語絵巻』六波羅行幸巻も花を添えました。熊野路からとって返してきた清盛が乾坤一擲の策により、幽閉された後白河院と二条天皇の身柄を確保し、一夜にして形勢を逆転させた顚末が活写された絵巻は、時代を雄弁に物語っていました。
 大刀剣市終了の翌日、お預かりした太刀五振を抱えて、刀剣協会へ返却に参りました。五振とはいえ、国宝に準ずるクラスの名刀は重みが違います。「盛会のうちに終わりました。ありがとうございます」。帰路、私の足取りはいつになく軽いものでした。(銀座長州屋・小島つとむ)

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