刀剣界ニュース

コレクター紹介 一躍有名になった明珍甲冑の愛好

マーク・タナバリスさん(四十四歳)は、フランスはカンヌの太陽と海風を一身に浴び育った、まるでオレンジのような、良く笑う好青年だった。
 彼との出会いは大刀剣市会場がサンケイホールから東京美術倶楽部に移ったときにさかのぼる。当時、慶応大生の彼は十万円台という低予算で一領揃いの甲冑を探していたが、会場にあるわけもなく、当店の倉庫からバラ部品をかき集め、具足の形にしたものを十六万円で買っていただいた。彼との付き合いはそこに始まる。
 その二年後には明珍 宗むねかね周作、嘉永三年の五枚胴具足を学友の両親に(!)申し込んだ借金で購入。この具足が彼を大きく甲冑の世界に引きずり込むこととなる。その後の研究成果かどうかがわからないが、このほど『山陽新聞』のほか、有名紙が彼とこの甲冑制作者を大きく取り上げている(後出)。しかし、彼の実像は鬼のような研究コレクターとは一線を画す、どこかユルいマイペースな男だ。
 私生活では商社勤めで日仏の食文化の懸け橋となり、現在はシャンパンのポメリーのアジア営業推進部長。事務所が担当者の職場の隣町でますます付き合いが深くなってしまった。「オイシイモノ食ベニ行キマショウヨ」と職場においでになり、この冬一緒に食事を取った八丁堀のビストロ、シックプッテートルは、あろうことか群馬の刀匠、石田久仁寿氏の義弟さんが経営する店。食事を終えるなり「コノオ店ハ予約ガ取レナイホドノ人気店ニナルヨ」と断言。その言葉通り、四月頭に予約せずに昼食に出かけた同じ群馬の刀匠高橋恒厳氏と担当者は満席のため入店できなかった。コレクターとしては若干ユルかったが、仕事熱心な彼は鋭い舌を持つことができたのかもしれない。
 実際のところは、コレクションより愛されている妻であり、しっかり者の二児の母であるアサコ夫人の監督下に財布が置かれ、コレクションテーマを絞らなくてはならず、江戸後期の明珍在銘品が彼に許された唯一のテーマだという。
 最後に、一昨年の大刀剣市のチャリティーオークションなどでは、言語に苦戦する仏語圏のお客さんたちのために通訳を無償で買って出てくれた男だということも付け加えておきたい。
 家庭を大切に、仕事を大切に、お小遣いを大切に、ムッシュはつらいよ。(綱取譲一)

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