刀剣界ニュース

風向計

景気の動向は「山」と「谷」という言葉で表される。「山」とは、店で商品がよく売れ、工場での生産が増えるなど、日本経済が好調で景気が一番良くなった時を言い、景気が最も悪い状態の時を「谷」と呼んで景気を登り坂と下り坂に見立て、状況が変わった時期を示している。
 谷から山に登ってまた谷に降りるまでを一回の景気循環と呼び、わが国では現在、内閣府が有識者会議を開いて景気転換の時期を見極めている。
 この「山」も「谷」も過ぎてみないことにはわからないが、内閣府は去る八月二十一日に有識者会議「景気動向指数研究会」を開き、平成二十一年四月を
「谷」として始まった景気拡大が平成二十四年四月を「山」として終了したと判定した。
 われわれの業界では信じられないことであるが、この景気拡大期間は三年と一カ月に及び、戦後六番目の長期にわたる拡大という。また、平成二十四年四月に終了したこの拡大期は、翌五月から後退の谷に向かっているかというと、まだ過ぎて間もないことなので八月の研究会の判定には盛り込まれなかったものの、後退局面は十一月には終わり、安倍政権に交代後の十二月からは再び「山」に向かっていると観測されるという。
 確かにわれわれの業界も、今年二月ごろからは長い低迷期間からの脱出の気配が感じられ、平成二十年九月の、あのリーマンショック以前の相場を回復しつつあるが、いまだに五年前よりは低水準にある。
 日本経済は、リーマンショック後の落ち込みから急速なテンポで回復し、平成二十三年三月の東日本大震災さえも景気拡大期の一時的な落ち込みと位置づ
け、昨年四月まで拡大水準を維持してきた。
 それと反比例してわが業界は、アメリカ発のリーマンショックにより打撃を受け、さらに東日本大震災により追い打ちをかけられ、翌平成二十四年二月から六月にわたって惹き起こされた相次ぐ倒産・不払い事故によって二番底、三番底の相場下落の憂き目に遭ったのである。
 日本経済の三年一カ月間の拡大期は、まさにわが業界の未曽有の縮小期であったが、リーマンショック前の平成二十年八月
ごろを「山」とすれば、過ぎたからこそわかる「谷」は平成二十五年一月ごろとみられ、今回の業界の景気循環は四年五カ月間の縮小期を経て一回の転換を見たと言い得るであろう。
 さて、「谷」に向かっての落ち込みは早く、「山」に向かっての回復が極端に遅い、日本経済の動向とかけ離れた動きを示す業界特有の遅行性は、かつて本欄で述べた地球の公転と自転に喩えられる経済動向そのものであり、外的要因によることよりも、内的要因による作用の方が、景気、ひいては取引相場に与える影響が大きいということに起因していると言える。日本経済の拡大期とは言っても、すべての企業が良いわけではなく、また、縮小期においても元気の良い会社はあり、それらの平均値によって全体の経済指標が成り立っているのであり、規模の小さいわが業界に至ってはなおさらに、個々の業者の事情が大きく全体の空気と平均値を左右するのである。
 かつてわが業界が良かった時も、全員がアイディアを尽くし、能力を発揮したわけではない。ほんの数人の、あるいは一人か二人の経営手腕に優れた先輩業者の小売販売力に便乗して業界全体が盛り上がり、また、一握りの業者間取引に長けた人たちによって取引市場が活況を帯び、相場も保たれたと言い得るのである。それ故に、数人の業者の事故が、被害を受けてもいない同業者の心胆にまで及び、業界はいとも簡単に冷え込み、長い低迷を余儀なくされるのである。
 今、ようやく日本経済と景気循環の軌を一にして「谷」を脱し「山」に向かおうとしているわが業界にとって待ち望まれるのは、一人でも二人でも、元気のいい若者の出現であろう。ゴルフ界、相撲界等に出現が望まれるスター選手でなくとも、英雄でなくとも、大物でなくともよし。出でよ人物。出でよ人材。

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