刀剣界ニュース

愛好家・コレクター紹介 郷土にこだわり、好きな道を仕事に生かす

植木好文さんは茨城県下妻市在住で、現在六十二歳。昨年三月に退職するまで、下妻市役所の職員であった。氏との出会いは昭和五十五年ごろ、日本美術刀剣保存協会茨城県支部の、高山武士先生を迎えての鑑定会だったと記憶している。
 植木さんの刀剣・刀装具好きは役所内でも有名だったらしく、平成十五年にはその見識と人柄を評価され、下妻ふるさと博物館の館長に抜擢されて五年間在籍した。
 その間、数々の企画展・特別展を開催し、好評を得た。中でも特に素晴らしかったのは、平成十六年に開催された「常陸の甲冑師・早乙女派の遺作」展であろう。独力で企画・開催し、大成功を収めた。
 一地方の博物館(失礼)の展覧会としては異例と思われる全国的な反響があり、関西からの来館もあったという。余談ながら、そのときの入場者数の記録は、いまだに破られていない。私も数回見に行ったが、照明・位置取りなど、どれを取っても素晴らしい展覧会であった。
 もう一つ、植木さんの功績は、研師の篠崎公紀氏を招き、博物館において刀の鑑賞方法、手入れの仕方などの初心者向け講習会を定期的に開き、好評を得たことである。刀剣の理解者や愛好家を増やし、文化財の保存に資してきたことは、博物館の本来の役割の一つである社会教育機能の面からも、立派である。
 退職後は刀剣三昧のはずであった。が、好事魔多し、両親の介護が待っていた。悪戦苦闘の日々であったそうだが、そんな
とき、手持ちの刀装具類が癒やしになったという。
 現在はだいぶ落ち着いてきて、気持ちの余裕も出てきたとのこと。今は刀剣類の数を絞り、お気に入りの刀装具の方に気持ちが移りつつある。早乙女の鐔は五枚ほど所持しているが、早乙女一派は本拠地が地元の下妻であることからもこだわり続けたいという。
 早乙女派については、理由はいろいろあるにせよ、ほとんど解明されていないのが現実である。いずれ余裕ができたら早乙女の研究をしていきたいと、植木さんは力強く言った。大いに期待したい。(赤荻稔)

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