刀剣界ニュース

ヱヴァンゲリヲンから戦国アバンギャルドへ 特別展「戦国アバンギャルドとその昇華 変わり兜×刀装具」に寄せて

特別展「戦国アバンギャルドとその昇華変わり兜×刀装具」の企画を考えたのは今から二年前のこと。社会には閉塞した気分が漂い、大阪市では橋下徹市長が当選したころでした。何か元気になれるような、市長を唸らせるような企画をと考え「変わり兜」の封印を解いてみようか、と思い立ちました。
 というのも、兜には刀剣・刀装具とは違う一つの立派な社会があって、そこに帰属していない自分は踏み込むべきではないと心に決めていたのです。その思いは今も基本的には変わっていませんし、今回が最初で最後の兜展だと思っています。
 しかし、それでも封印を解くことを選んだのは、自信を失いつつある今の日本人に、先人たちのすばらしい遺産を知ってもらい、アイデンティティを取り戻してもらいたいという一念でした。ただ、私は兜の専門家でありませんので、ライフワークとする刀装具と組み合わせることでオリジナリティを出すことにしました。
 当初は刀装具のことが気持ちの中心にありましたが、どんどん兜の魅力に引き込まれていき、突き動かされるように日々が過ぎていきました。佐倉の歴博から借りれば簡単でしょうが、それではこれまでと同じ。章立ても意匠別ならこれまでと同じ。同じことをやっても意味がないので、なるべく展示歴の少ないものを新しいテーマで構成することに力を注ぎました。
 無知というのは恐ろしいもので、幸か不幸か、兜の知識がなかったがゆえに、自由な発想を広げることができました。刀装具の方では、変わり兜と競わせ
ているうちに、当初想定してなかった「変わり鞘」のコーナーが充実しました。その一部は、チラシ(当館HPからダウンロードできます)やブログでもご紹介しています。
 どうすればみんながびっくりしてくれるかしらともくろんでいるうちに、気づけば自分がびっくりするほどの名品が集まっていました。勢いだけで進んできたので、細かいところで勉強不足を露呈するでしょうが、どうかそこは温かく見守ってください。
 「ヱヴァンゲリヲンと日本刀」展開催の打診を受けたのは兜展開催の決定後でした。当初は消極的だったのですが、長船の展示を見て考えが一転しました。というのも、今回の変わり兜展は、優れた遺産の紹介にとどめるのではなく、それを現在につなげるところまで絶対に持っていきたいと思っていましたが、まさにその「過去の技術力を現在の形にする」のがヱヴァ展だったからなのです。
 開催前は内外から冷ややかな声も受けましたが、展示を見てもらえばわかると確信していましたし、実際その通りになりました。これはすべて、刀匠・刀職者が、予想を凌駕する手仕事レベルで渾身の仕事をしたおかげです。彼らの奮闘が、この展覧会のすべてだったと思います。来場者は十代後半から三十代にかけてのヱヴァファンが中心でしたが、意外にも日本刀の歴史を伝えるコーナー、特に「刀身の重さを体感する」と銘切りは好評でした。
 ヱヴァ展からの流れの中で「変わり兜×刀装具」展に入っていけることは予想外の幸運でしたが、みんなを驚かせよう!というもくろみはヱヴァ展の衝撃の陰に隠れてしまいました(笑)。この規模の変わり兜と刀装具の展示は向こう三十年は開催されないと勝手に思っていますが、三十年かどうかは別としても、またとない機会であることには違いありません。
 この秋はぜひ、大阪歴史博物館の「変わり兜×刀装具」をごらんいただきますよう、お知り合いの皆さまにもお口添えください。

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