刀剣界ニュース

「たたら・日本刀」の無形文化遺産登録を

昨年六月、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の世界文化遺産に「富士山―信仰の対象と芸術の源泉」が、十二月には同じくユネスコの無形文化遺産に「和食―日本人の伝統的な食文化」が登録された。さらに今年は「富岡製糸場と絹産業遺産群」が、来年は「明治日本の産業革命遺産―九州・山口と関連地域」がそれぞれ世界文化遺産登録を目指している。
 
ここに「世界文化遺産」と「無形文化遺産」という二つの異なる概念が登場する。誤解を避けるため、違いに触れておこう。
 
一九七二年、ユネスコ総会で採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」(世界遺産条約)に基づき一覧表に記載(登録)された遺跡・景観・自然など、人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」を持つ資産を世界遺産と言う。それは自然遺産と文化遺産、自然と文化の要素を融合した複合遺産に三分される。
 
わが国では九二年に同条約を締結、翌年、「法隆寺地域の仏教建造物」と「姫路城」の二件が文化遺産として、「白神山地」と「屋久島」の二件が自然遺産として初めて一覧表に記載された。現在までの登録件数は十三だが、複合遺産はない。
 
これに対して無形文化遺産は、二〇〇三年に採択された「無形文化遺産の保護に関する条約」(無形文化遺産条約)に基づき、「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」ならびに「緊急に保護する必要のある無形文化遺産の一覧表」への記載と、これらの保護を定めたものである。
 
わが国では〇四年に締結、本条約発効前にユネスコが実施していた「人類の口承及び無形遺産に関する傑作の宣言」(傑作宣言)の三件(能楽・人形浄瑠璃文楽・歌舞伎)の統合により現在、下図の二十二件が「代表一覧表」に記載されている。
 
これらを見ると、和食を除けば、重要無形文化財(芸能・工芸)と重要無形民俗文化財に他ならない。

形文化遺産へ、と。たたらは古来独特の砂鉄製錬法であり、今やその価値が世界的に認知されつつある日本刀は、もっぱら和鉄を原料として製作されてきた。「たたら・日本刀」は、日本刀をシンボルとする和鉄文化と言ってもよい(現在、ほかに和鉄の使用例はない)。
 
人間国宝の死没により、日本刀も刀剣研磨も既に重要無形文化財の指定を解除されている。わが業界が口火を切って、無形文化遺産登録への道筋をつけることにしてはいかがであろうか。世界遺産では地方公共団体からの提案を公募しており、和食申請のきっかけは京都の料理人たちの発案であったという。その一石が「たたら・日本刀」にも欲しい。(土子民夫)
 
世界遺産が主に視認できる有形のハードウェア・不動産であるのに対して、無形文化遺産はソフトウェア、慣習や表現や知識・技など広義の文化を対象とするとも言える。
 
わが国では文化財保護法を明確な根拠として、有形文化財・無形文化財・民俗文化財・埋蔵文化財など、「文化財」の概念が浸透している。しかるにユネスコの諸条約が「財」(property)ではなく、あえて「遺産」(heritage)としたのは、「人類の(無形文化)遺産の保護に対する普遍的な意思と共通の関心」(無形文化遺産条約前文)を持って未来の世代に伝えていくということであろう。これは、日本人にとっても得心がいく。

そこで、提案をしたい。

「たたら・日本刀」を無形文化遺産へ、と。たたらは古来独特の砂鉄製錬法であり、今やその価値が世界的に認知されつつある日本刀は、もっぱら和鉄を原料として製作されてきた。「たたら・日本刀」は、日本刀をシンボルとする和鉄文化と言ってもよい(現在、ほかに和鉄の使用例はない)。
 
人間国宝の死没により、日本刀も刀剣研磨も既に重要無形文化財の指定を解除されている。わが業界が口火を切って、無形文化遺産登録への道筋をつけることにしてはいかがであろうか。世界遺産では地方公共団体からの提案を公募しており、和食申請のきっかけは京都の料理人たちの発案であったという。その一石が「たたら・日本刀」にも欲しい。
(土子民夫)

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