刀剣界ニュース

「お守り刀展覧会」の企画から 文部科学大臣賞等の交付まで

平成十七年、備前長船刀剣博物館・瀬戸内市・山陽新聞社・テレビせとうちの共催で、月山貞利会長の下、全日本刀匠会設立三十周年記念、第一回「お守り刀展覧会」が、備前長船刀剣博物館にて開催されました。
 
開催地岡山では、お守り短刀を持つ古来からの風習が残っており、地元デパートから「お守り刀展」の開催を打診されたことがきっかけで、外装付き短刀コンクールとして企画。新作名刀展との競合が心配されましたが、新しい切り口の実験的開催として認められました。
 
財団法人日本美術刀剣保存協会、および三匠会の後援と審査委員派遣をいただき、岡山県・岡山県教育委員会の後援、地元企業などの協賛・協力も頂いて、刀身の部、外装の部、総合の部の三部門、参考出品も含む応募総数二百八十三点と、大変な盛会となりました。そして、それまでの刀剣展示会場では、見ることの少ない女性のお客さまも多数ご来場いただき、審査委員の皆さまからは「次はいつ開催するのか」という温かいご意見も賜りました。
 
第二回お守り刀展覧会は、備前長船刀剣博物館と、福岡市美術館の二会場で開催。文化庁後援を頂くとともに、以後隔年から毎年開催に変更され今日に至っています。
 
九州での開催は初めてということから、とても心配されました。しかし、地元刀匠会会員の奔走もあり、西日本新聞社・TVQ九州放送の共催と、福岡県・福岡市および両教育委員会の後援、新日本製鐵八幡製鉄所の協賛を頂くことができました。
 
福岡の瀬戸吉廣副会長の英断で、仮設展示ケースの自主制作、全照明器具の統一化による開催でした。結果、自分たちの目でも予想を上回って美しく見え、毎日のように友達とともに会場に足を運ぶ女子学生や、両親にお守り刀の購入を頼む女子学生まで出てきて、地元会員を驚かせました。
 
さらに、寡黙で近寄りがたい刀工に質問できないお客さまがおられることに気づいた会員の奥さまたちが、会期途中から交代で受付を務めてくださったことから、質問も多数寄せられるようになりました。初日よりも最終日の方がお客さまが増えて、学芸員をビックリさせる結果となり、会員スタッフを喜ばせるとともに、以後開催の自信につながりました。
 
開催初日の閉館間際、奥さまを乗せた車いすをご主人が押して、ご夫婦が来られました。健常者の目線で展示した場合、車いすなどからの低い目線では、刀はよく見えません。おわびの声をかけようとしたところ、奥さまからご主人に向かって「あなたがなぜ刀が好きなのか、わかったような気がするわ。今日はもう、閉館間際だから、またあらためて連れてきて」と言われました。
 
そして、最終日にも来られていて再会。私に「もうこれでおしまい?」と尋ねられたので、デパートでの展示即売会があることを告げたところ、「私たちには買えないわよ」と笑いながら、「でも、もう一度デパートにも見に行きましょう」と言うので、私は飛び上がりたいほど嬉しく思いました。
 
実は、予算の都合で展示台の高さが、偶然低かったことが幸いし、車いすの奥さまの目線でも見える作品が何点かあったのです。それをご覧になって「日本刀って、とてもきれいなものなのね」と話されたのでした。
 
そして、車いすの方たちと同様に目線の低い子供さんたちにも、刀の美しさにぜひ出合ってほしいと、強く思いました。
 
第三回は吉原国家会長の下で、長船以外に岐阜県の関鍛冶伝承館と江戸東京博物館が加わり、三館で開催。中日新聞社・テレビ愛知・関伝日本刀鍛錬技術保存会の共催と、岐阜県・岐阜県教育委員会・関市・東京都教育委員会・日本経済新聞社・テレビ東京・東京都などの後援と貝印グループなどの協賛を頂くことができました。さらに、日立金属からも特別協賛を頂けることになり、今日に至っています。
 
関会場は問題ありませんでしたが、東京会場では、福岡と同様、仮設展示ケースが必要となり、福岡での経験から、レンタルケースの会社にスタッフが集合、車いすに見立てたいすに座って、展示台の高さ、照明の具合をチェック、少しでも多くの皆さまに刀剣を楽しんでいただけるよう配慮しました。おかげさまで、それまで以上の入場者に恵まれる結果となりました。
 
その後も、長野県坂城町が共催団体に加わってくださり、備前長船刀剣博物館とともに第四、六、八回は坂城町鉄の展示館、第五回は岡山国民文化祭に組み入れていただき、大阪歴史博物館、第七回は熊本県伝統工芸館でも開催することができました。
 
この間私たちが学んだのは、多くの博物館や美術館は刀剣展示用に作られた施設ではなく、刀剣博物館や国立博物館とは違う。開催する会場に適した展示の工夫は必要である。そのためには、自分たちの素直な目で、格好良く、美しく見えるように、臨機応変に工夫をして展示することが、刀の良さがわからないと言われるお客さまと共感できるとても大切な要点であるということでした。
今年度、第八回お守り刀展覧会に、文部科学大臣賞・駐日ポーランド共和国大使賞・新人賞が交付・授与されましたのは、私たちにとって思いがけない喜びでした。
 
私たちの展示会が、国からも認めていただくことができたのです。さらに、私たちの現代刀が、国際交流のお役に立ち、国際平和につながるとしたら、どんなに素晴らしいことでしょう。私たちも世界的な視野を持たなくてはならない時代が来ていると、今あらためて感じています。
 
社団法人全日本伝統文化後継者育成支援協会からの新人賞は、受賞者のみならず、その刀工を育てた師匠にも恩典を授けるという、これまでにない賞の形態を持っている、とても嬉しい賞でした。
 
この三賞は、今日までお守り刀展覧会を続けてこられたからこそ頂くことのできた賞です。出品し続けた刀工の皆さまの努力は言うまでもありませんが、多くのファンの皆さまの有形無形の支援がなければ続けてこられなかったことも事実です。皆さまに支えられ、みんなの力で共に手にすることができた三賞です。スタッフの一人として、ご支援いただきました皆さまに心から感謝申し上げます。
 
私たち刀工にとって、コンクールは自分の作品が評価され、皆さまに見ていただくチャンスです。しかし、刀身のみならず外装も含めて製作する経済的負担は、今日、とても厳しい現実に直面していると言わざるを得ません。
 
それでも私たちは、諸先輩から伝えられてきた技術をそれぞれが受け継ぎ、これからもファンの皆さまとともに創り続けて、現代の皆さま、世界の皆さまに愛されるお守り刀を目指していきたいと思っています。そして、皆さまに喜んでいただけるような展覧会を開催し、皆さまとの交流を深め、お守り刀を通じて感動を分かち合いたい。
 
私たちは、作り手の立場で、日本の伝統文化・技術を次世代に伝えていきたいと願っております。
 
どうか、今後とも一層のご支援を賜りますよう、あらためてお願い申し上げます。

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