刀剣界ニュース

本物を見極め、本質をとらえたい阿部 聡一郎(研師)

高校卒業後、大学に通いながら研師である父の元に弟子入りし、今年で九年目となりました。
 
研師の息子というと、小さいころから家業を継ぐように決められていたとか、刀剣の世界に触れながら育ったように言われることがあります。実際、仕事場にはいつも刀があり、博物館などの刀の展示にも何度か連れていってもらったりしたので、同じ年代の子供よりは刀に馴染みがあったとは思います。が、父は「自分のやりたいことをやればいい」と、仕事を継ぐように強制することは全くなく、自分もそれほど刀や研ぎに興味を持っているわけではありませんでした。
 
研師になることを初めて真剣に考えたのは、高校三年生となり進路を決める時期になってからでした。人と関わりながら進める仕事よりも、一人でじっくり取り組む仕事の方が自分には合っていると思い、父に頼んで、仕事の手伝いをしながら、フレックスタイムで大学に通うという修業生活を四年間続けました。
 
父の教えは仕事についてだけでなく、刀の鑑定や知識、作法、日常の雑事、他者への気遣いにまで及びました。私は、研ぎはもちろんのこと、刀についても全くの素人だったので、仕事を覚えることと学業との両立は大変でしたが、自分で選んだ道だったので、やめたいとは思いませんでした。そして、できることが増えていくにつれて、次第に仕事の楽しさや刀の素晴らしさを実感するようになりました。
 
何より、父の仕事に対する真摯で真っ直ぐな姿勢と、父の仕事が人に感動を与えられることを毎日隣で見続けたことが、仕事を続けていく原動力となりました。
 
父の教えの中で最も大事にしているのが、「本質を見失うな」ということです。損得や毀誉褒貶にとらわれず、研ぎの仕事や刀そのものについて、本当に良いもの、美しいものは何かということを考え続けることこそが、刀と向き合う上で最も大切だと教えてもらいました。父には、本当に感謝しています。
 
今年になってやっとコンクールに出品できるまでになりましたが、自分にとってはこ
れからがスタートだと思っています。一人前の研師になれるよう、まだまだ学ぶべきことはたくさんあります。そしてその中で、本物を見極め、本質をとらえたい16ということを常に考えながら、これからも努力し続けていきたいと思います。
「本質とは何か」阿部 聡一郎(研師)

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