刀剣界ニュース

風向計 其之十五

『日本経済新聞』が去る十月二十四日までに公表された各種経済指標の情報を織り込んで景気の動向を予測したところでは、今年度の実質成長率は〇・一%、来年は一・二%の見通しであるという。
 
直近の実質GDP(国内総生産)と個人消費は前期比微増にとどまった見込みであるが、依然として経済の回復基調は続いており、十一月以降も設備投資は堅調に推移し、消費の持ち直しも続き、緩やかな成長基調は維持されるとしている。また、アメリカを中心とする海外経済も緩やかに加速していくことが見込まれ、六、七年ぶりの円安も手伝って日本の輸出の足取りも徐々にしっかりとしていくと見込んでいる。
 
一方、消費の動きは一進一退であるが、大手小売業の月別売上高などを見るに、夏以降改善の兆しが見られ、雇用環境の安定を背景に個人消費も回復傾向にあり、実質消費は今年が前年比二・五%減であるのに対し、来年は一・二%増と予測している。このような予測を裏付けるように日経平均株価は底堅く推移しており、数値の上では当面の経済不安は払拭されると言い得る。
 
しかし、毎日の新聞などの報道は決して予断を許さない記事も多く、ましてや週刊誌などの見出し記事を見れば、今にもアベノミクスが終焉の時を迎えそうな内容も見られ、事業を行っている者にとっては、日経新聞の先行き予測通りに平穏に推移していくことを願うばかりであろう。さて、そのような状況の中でわが業界の最近はいかがなものであろうか、眺めてみよう。
 
業界にとって最大の関心事は刀剣等の相場であり、その相場の決め手となるのが、重文・重美を除いては公益財団法人日本美術刀剣保存協会(以下、協会)の発行する保存刀剣等の鑑定書と重要刀剣等の指定書であることは、功罪を別として誰もが認めるところであり、繰り返し述べているところでもある。
 
今年度の重要刀剣の合否の発表が十月に行われた。刀剣は申請数六八〇点に対して合格一二七点、刀装小道具は二六八点に対して五一点であった。この合格総数一七八点は、直近の平成二十年が一三五点、二十一年一五七点、二十二年八八点、二十三年五七点、二十四年九〇点、二十五年一二三点に比べかなりの増加であり、殊に協会が指定数を絞った平成二十二・二十三・二十四年の三年間とは比べものにならない数字である。
 
本欄では、需要と供給に需給ギャップという言葉があると同様に、重要刀剣等の指定数と価格相場に、相対的ギャップという言葉を当てはめることができると述べたが、最近の交換会などでの取引相場を見るに、景気の回復傾向と比例するように重要刀剣等の相場も上昇気運を見せ、総体的に四年前の底値からは二〇%以上、ものによってはそれ以上の持ち直しを見せている。平成二十二年に入り、政権交代の効果が出始めた時期に、くしくもこの年以降三年間に指定総数が合計二三四点にとどまり、まさに指定数と相場との相対的ギャップは縮小しているが、今年の指定総数一七八点は当面その傾向に変わりがないことを示す数字である。
 
なぜならば、平成二十年以前の十年間、つまり平成十年から十九年度までの重要指定数は二五六三点、年平均二五六・三点で、今年の一七八点はその十年間の平均の七〇%に満たない数字であり、来年以降も同様の数字が続いたとしても現在の相対的ギャップに変わりはなく、景気の動向に特段の変化がない限り、重要刀剣等の取引相場は維持されるものと予測し得る。
 
重要刀剣の取引価格が目安となって特別保存等の刀剣・刀装小道具の相場が成り立っている現状からすれば、ここ数年間の重要刀剣等の指定総数の数字は、生産調整や出荷調整のように協会が意図的に行ったことでないにもかかわらず、見事に業界景気、ひいては取引相場に比例した絶妙な按配であったと言い得よう。このように相対的ギャップと業界景気の動向が噛み合っている時こそ、刀剣業者にとっては商機であり、愛好家にとっても安心して購入できる機会である。
 
繰り返し述べるように、協会の充実・安定と刀剣商組合・刀剣業界の安定とは刀界発展の必須の条件であり、そのための努力を惜しんではならない。
 
この十月は協会移転が発表される慶事もあり、業界は「大刀剣市」を迎えた。刀剣商という職業の地位向上を大きな目的の一つに掲げて刀剣商組合は船出した。今を好機として業界の充実を図り、刀剣商をよりメジャーな職業にしてゆくためにも、「大刀剣市」の三日間は殊に大切である。出店する業者もしない業者も、今この時期を逃してはならない。
 
日経新聞の経済見通しを信頼できるものとするならば、年末年始に向かって業界もさらなる上昇気運が見込まれるかもしれない。今、業界が一丸となれるかの正念場を迎えている。

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