刀剣界ニュース

海外の愛刀家から見た「大刀剣市」

海外には明治初期以来、日本刀愛好家が存在していた。当時来日した外国人は、開港していた横浜や神戸の新興都市で、日本刀を求めることができた。日本人も外国人の購買意欲を満たすため、刀剣類を扱う店をこれらの地に開業した。
 
日本刀・刀装具・甲冑を大量に収集した外国人もおり、そのコレクションをボストン美術館や大英博物館などの有名なミュージアムに寄贈する者も現れた。特にアメリカとヨーロッパには、二百五十年間徳川幕府の政策によって閉ざされていた国の文化と美術に、高い関心を持つ人が少なからずいたのである。
 
しかし、日本刀と刀装具に対する関心が若者の間で大いに高まったのは、第二次世界大戦後、連合国軍の日本占領が終了した後のことである。そのきっかけとなったのは、日本に駐留していた将兵が本国に帰還する際、多数の刀剣と刀装具を持ち帰ったことである。
 
東京などの大都市には当時、進駐軍を相手に刀剣を扱う業者がおり、刀剣や刀装具をお土産として格安で入手できた。
 
ご存じの通り、日本は戦後驚異的な経済復興を成し遂げ、昭和時代の後半には多くの日本人刀剣商が海外、特にアメリカとヨーロッパに渡って、日本から大量に流失した刀剣類を買い戻すことになった。当時のこのような刀剣類の国際取引は、関係者に巨大な利益をもたらしたと言われる。この時期はしばしば日本刀の「グレート・ゴールドラッシュ」と呼ばれる。
 
また、この時期から英文による専門的な刀剣書が発行されるようになり、ヨーロッパとアメリカで発足した多くの刀剣会の活動を後押しした。これらの刀剣会は、売買による利益のための組織ではなく、刀剣類の勉強とともに収集と鑑賞を目的とするものであった。現在でもこれらの刀剣会の多くは、勉強会を定期的に開催し、活動を続けている。
 
また、日本刀鑑賞に新しいテクノロジーが導入され、さらに若い世代のコレクターを引き込むことになるであろうと期待している。 「大刀剣市」が初めて開催されて以来、日本を訪れる外国人にとっては、刀剣類の名品を手に取って鑑賞する好機に恵まれると同時に、それらを購入することも可能になった。最近では、残念ながら海外での刀剣ショーの開催が少なくなり、あってもその規模が小さくなり、質的にも低下しているように思える。現在、大刀剣市のような大規模で質の高い刀剣ショーは、海外には存在しない。
 
毎年秋に開催される大刀剣市は、NBTHK(日本美術刀剣保存協会)の鑑定証が付く状態の良い刀剣が、多くの選択肢の中から自由に買い求めることができるまたとない機会で、われわれ海外コレクターにとってはこの上ないメリットである。
 
刀剣商の中には、外国人が店舗の前に立って、購入する気もないのに、いろいろ商品を見せてくれと言うのに付き合っているのは「時間の無駄」と考える方がいるのもよく理解できるし、それを責めることはできない。しかし、彼らは、いつもそこから何かを学ぼうと必死なのだ。そして次回、大刀剣市を訪れたときには、彼らの鑑識眼も上がり、前回受けた親切な対応を忘れずに、その店から刀を購入するということにもなるであろう。
 
現実に、今回の大刀剣市においてはかなりの数の外国人が、高額の刀剣や鐔を購入していたように思われる。
 
大刀剣市を訪れるほとんどの外国人は、刀剣類の扱いについてはよく訓練されている。従って、刀剣商の皆さんは、彼らが商品を損なうような事故を起こす危惧を抱く必要はないと思う。彼らにとって、大刀剣市のためにわざわざ日本に来ること自体が相当な経済的負担だから、事故を起こして無駄な出費を負うのは愚の骨頂である。
 
大刀剣市を訪れる外国人は、単に刀剣類を見たり買ったりするだけでなく、日本刀に関するイベントにも関心を持ち、それに参加し、内外の人々と交流を持つことができるのも大きな喜びと感じている。
 
今回は、私を含む英国、アメリカ、フランス、ドイツ、スウェーデン、オーストラリア、南アフリカからの参加者があった。刀剣商の皆さんには、このように世界各国からやって来る刀剣コレクターに一層注目し、言葉の障害を乗り越え、忍耐強く将来の良いお客さんを育ててくださるようお願いしたい。
 
最後に蛇足ながら書き添えると、外国人が刀剣類を購入するとき、それぞれのお国柄がよく発揮されるという。
 
例えば、ドイツは何事も論理的に整然と組織的に動く国民性である。刀剣を購入する場合、その作品の時代・流派などを詳しく分類し、厳密に検証する。
 
イタリアは情緒的、きらびやか、気ままで非組織的なお国柄である。彼らは豪華絢爛で装飾性の高い拵や刀装具を好む。
 
アメリカは人種のるつぼである。従って、彼らの美術品の好みは多種多様で、あなたが思いもよらないものでも喜んで購入するだろう。
 
さて、わが英国であるが、評価は第三者にお任せすることとしたい。(英国刀剣会会長、クライブ・シンクレアー)

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