刀剣界ニュース

待たれる新刀剣博物館のオープン 業界の問題解決に向けて日刀保と協議

平成二十四年四月に公益財団法人として新たなスタートを切った日本美術刀剣保存協会(小野裕会長。以下、日刀保)は、「和」の精神の下に公益目的事業の推進と刀剣文化のさらなる普及のため、積極的に関係機関、業界各団体との連携を深めています。
 
設立から六十七年、絶えず変革が求められ、戦後の日本再生とともに歩んできた日刀保ですが、現在、刀剣博物館の移転という最大の事業に臨んでいます。
 
そのように慌ただしい最中にもかかわらず、当組合との会談の機会を二月二十七日に持っていただきました。日刀保より小野会長・柴原勤専務理事・福本富雄常務理事が出席され、組合からは深海理事長・飯田前理事長・冥賀副理事長・清水専務理事・伊波常務理事と筆者が出席しました。
 
初めに小野会長より、移転に関する進行状況が報告されました。前回の会合では、移転に関する財務収支はかなりの寄付金を要するとのことでしたが、今回の報告では当初の設計を変更することなく、日刀保の基本財産等で移転が行えるよう、予算案を大きく見直したということでした。
 
今後、寄付金を広く受けてはいきますが、前回の内容ほどの移転費用の収支差がなくなりました。この案件は組合としても無縁ではなく、大変心配していただけに、まずは安堵しました。
 
新刀剣博物館の施工には既に戸田建設が選定されており、平成二十八年三月に着工し、二十九年春に完成する予定だそうです。現在は埋蔵文化財の調査が進められており、間もなく終了するとの報告もいただきました。開館については詳しく言及されませんでしたが、建物の完成後おそらく一年を要するのではないかと推測します。
 
新刀剣博物館は隅田川沿いに位置するため、河川が 氾濫した場合の水害対策について伺いましたところ、江戸時代より隅田川の水を引く潮入回遊庭園となっており(現在は地下貯水槽よりポンプを使用)、もし園内に隅田川の水が流入してきても、園外へ自然に排水できるような構造になっているようです。
 
江戸時代、本庄氏によって大名庭園に築造され、明治に入り安田財閥が維持してきた名園を、今後は刀剣博物館を訪れる世界の人々が楽しめることは、大変喜ばしい限りです。
 
墨田区より借地するため、日刀保が地代を支払いながらの運営となりますが、一方、三階建ての一階部分は、墨田区民の憩いの広場として有意義に活用されるために、地代はその分考慮される金額と伺いました。
 
新刀剣博物館は地域情報コーナーやカフェなど、地域交流の場としての機能に加え、国際文化交流の場としても大きく貢献し、近隣の美術館・博物館などとも提携することで、新たな多くの来館者で賑わうことになりそうです。

刀剣業界の問題解決のために
 
日刀保の主要業務である刀剣審査の受付物件数がここ数年大幅に増加傾向にあり、業務量が増えるとともに、物件返却までに従来より時日を要しています。機関誌『刀剣美術』本年二月号でも、返却の遅れにご理解をいただきたいと、お詫びが記載されています。
 
組合から日刀保に対し、あらためて審査終了後の返却までの期間短縮を要請しました。
 
日刀保からは、三名の新しい職員を採用し、学芸員は休みを返上して対応している現状にあり、改善するまで今しばらく待っていただきたいとの回答がありました。
 
刀剣類の審査には、受付から鑑定書発行まで多くの業務があり、その作業を正確にこなしつつ、いかに時間を短縮できるかが、大きな課題です。組合として、その時間というキーワードに何か協力できないかと提案をいたしました。
 
続いて、刀剣類の名義変更に伴う問題について協議しました。

刀剣入手後、銃砲刀剣類所持等取締法により名義変更が義務づけられているものの、従来、刀剣所有者の方々にはあまり重要視される傾向にはありませんでした。当組合は警察庁認可の団体でもあり、警察行政に協力するために、組合員・愛刀家の方たちへここ数年、さまざまな機会を捉え名義変更の重要性を訴えてきました。
 
その結果、東京都の場合、かつて四千振程度であった名義変更申請が、ここ数年は六千振以上と飛躍的に増えました。おそらく他の道府県でも同じ傾向が見られることでしょう。
 
しかし、登録証を交付している教育委員会の誤記のために、まま善意の申請者に不都合が生じています。
 
新たに所有した旨を届け出ると、寸法違いや銘の脱字など、台帳と相違するとの理由で名義変更ができないばかりか、銃刀法違反の犯罪者になりかねないと、交付した教育委員会から指摘される現状です。公安委員会まで巻き込み、事件性がないにもかかわらず多くの時間を費やし、その後新規登録として扱われることもあります。
 
このような問題を何の対処もせず放置しておけば、業界にとって登録制度は負の遺産となりかねません。
 
しかし、過去の登録証記載ミス問題を、当組合だけで折衝しようとしても解決はきわめて困難です。そこで今後、行政側に問題解決の窓口を設けてもらえるように働きかけるため、日刀保にも協力をいただきたいとお願いしました。小野会長からは、そのような問題は、愛刀家の方々が安心して刀剣類を所持するには必要不可欠なことであり、今後大いに協力していきたいとの回答をいただきました。
 
今回の日刀保との会合は、多くの業界の声を聞き、新刀剣博物館にその声を生かしていこうとする、現執行部の方々の意気込みを伺う有意義な機会となりました。
 
刀剣業界発展のための、また未来へ伝統文化を継承していくにふさわしい、新刀剣博物館の開館が待ち遠しい限りです。
(嶋田伸夫)

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