鑑定書内容:財)日本美術刀剣保存協会 特別保存刀装具 [N.B.T.H.K] Tokubetsu Hozon Tousougu

- NO.B257
- 作者 : 八代 甚五
- Inscription : Yatsushiro Jingo
- 時代:江戸時代
- 法量 縦:72.9mm 横:70.2mm 厚:3.6mm
- 価格:¥660,000
志水派は、平田彦三の甥であった初代志水仁兵衛により創業され、林、平田、西垣家とともに細川家抱工として肥後金工群の主流を形成した。初代の作品には真鍮据紋の鷹や梟の鐔があり、刀装具の世界では圧倒的な存在感を持った異色な作者として知られている。肥後金工の中では在銘の作品が最も多く現存しており、初代から五代まで個性豊かな作品を数多く遺している。三代志水甚五は甚五として二代目で永次という。元禄四年(1691年)生まれで、十五歳の時に二人扶持を給わり、十六歳から二十一年間にわたって西垣勘四郎の門人となった。晩年七十二歳頃に甚五と改名し、安永六年に八十七歳で没した。肥後八代住。
三代甚五は初代甚兵衛や二代甚五郎とは異なった作風で知られ、迫力ある個性豊かな作品を遺している。真鍮据紋象嵌や銀布目象嵌から地透まで多彩な作風で、名人と謳われている。なお、茎櫃上下に責金の為の丸みを帯びた穴を作っているものが多く見られる。甚五の在銘作は、後代と区別し「口なし甚五」と呼ばれて珍重されている。
薄手で地叢ある障泥形の鉄槌目地には漆黒の潤いがあり、侘びた情緒を醸し出している。鋤出彫の平地に銀布目象を施し、表に牡丹唐草の宝相華を繊細に描き、裏に桔梗紋を大胆に配置して格調高く仕上げている。志水家は明智光秀家老の志水丹左衛門に由緒があり、光秀や加藤清正が用いた桔梗紋を配した特別な事由があったのかも知れない。切羽台表に刻まれた「八代甚五作」銘と、茎極上下の特徴的な繋跡から、三代甚五の作と鑑せられる。後年施された赤銅覆輪とも調和して、名鐔の古雅を引き立てている。鋤出彫を背景に荘厳華麗な宝相華紋と凛々しい桔梗紋の対照的な意匠には、名人甚五ならではの独創性が感じられる。錆付の豊潤な味わいや焼き手槌目地の働きには、細川三斎が主導した茶道の侘び寂びに通じる精神美が認められる。後藤家で修業した二代勘四郎の指導を受けた三代甚五ならではの精緻と雅趣が見事に共存して、独自の作風となっている。