刀剣界ニュース

全刀商の活動紹介〈共同宣伝部及び共同販売促進部〉   大刀剣市の実行委員会

俺の横顔に酒臭い誰かの息がかかった。隣のつり革につかまっているサラリーマンが、つかまったまま眠りかかっていた。イラッとする。
 一番奥の座席では、太った中年の男が赤い顔で視線を前に投げている。その視線の先は向かいの席の、夜のお勤め帰りの肌のあらわなお姐さんで、既に頭のてっぺんから足の先まで弛緩させ切って眠っている。ハハァこれを見ていたのか。ムカッとする。
あーあ、俺もいつもだったらこの幸せな人々の一人のはずなのに。大刀剣市のカタログ編集で、どこかで一杯やったら終電に間に合わない時間まで、ノンアルコールだったんだよな。自分も呑んでいるなら他人の酔い様は気にならないのに、自分だけ素面だとなぜこれらが気になるのか、イラッとかムカッとかなるのか、不思議だ。
 組合には経済・金融・総務の各委員会があるが、経済委員会の中の「共同宣伝部及び共同販売促進部」が若い組合員の力を借り、大刀剣市の仕事を担っている。
 組合事務局から委嘱状が届いたとき、われわれは感動に打ち震えるわけはなく、ショックのあまりガクッと膝を折り、その場に崩れ落ちるのだ。
 何せ、それぞれが自分の仕事を持ちながら集まるので、当然遅い時間となる。全員が一堂に会することはなくても、責任感の強い者が時間を割いて出向く。もちろん無報酬だが、皆の行動の原動力は個々の目先の利益でなく、業界全体の活性化という願いにほかならない。
 暑くなり始めるころから商品撮影の段取りなど、もう始まるのだ。一昨年から委員会は、生野正・宮沢琢といった新しい力を得ることができた。生野氏は印刷業界で活躍していた経緯を持ち、宮沢氏の集中力には驚かされる。また昨年は、松本義行という新たな視点を持つ人の力を借りることができた。もう一つ、東京美術倶楽部や東京貸物社との折衝に当たる理事たちの活躍もここに付け加えておく。
 残暑厳しいころには、ノンアルコールで遅い時間に電車に乗ることとなる編集・校正だ。これは委員なら一人残らず経験している。ワインを開けたとき、俺はその芳香に能書きを垂れることが多い。しかし、他人の体に入ったアルコールの匂いは、ただ臭いと感じるだけだ。早く学芸大学駅に着かないかなー。ひたすら夜の東横線の中で願う俺であった。(綱取譲一)

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