刀剣界ニュース

御刀とお客さまの 喜びをわが信条に

今日、世界経済が不安定の中、わが業界もさまざまな不安を抱えております。愛刀家の減少、そしてわれわれ研師におきましては、天然砥石が品薄である問題が懸念されております。
 今は下地の途中まで補える人造砥もあり、一般に広く使用されているようですが、細名倉砥・内雲砥といった仕上げに重要な天然砥石の入手が困難になっております。
 また、刀職希望者も減少している昨今であります。
 私はまず一般の方々に御刀を知っていただくことが大事なことではないかと考えます。
 私の場合、幼少期に時折、細工場に入ると、祖父や父たちが張り詰めた空気の中で無心に御刀と向き合っており、それを意味もわからず、自分もやってみたいなと思い、正座をしながら眺めていました。
 また専門学校在学時、海外の留学生たちに出会った際に、彼らが自国の文化と伝統に誇りを持ち自国を愛する姿に接し、幼少期の思いが蘇ってきました。そして、日本の工芸品の保存にかかわりたいと思い、この世界に入ることとなりました。
 私の周りの友人・知人に、日本刀に関して尋ねてみると、実際に本物の刀を見てみたい、どこへ行けば見られるのか、と逆に聞かれます。そういった方々によくよく聞いてみると、それは決して名刀に限るわけではなく、武士の魂である日本刀の実物を見てみたいということのようです。多くの人に、御刀を実際に目で見て、触れて、肌で感じていただくことが大事であると思われます。
 昨今の、コラボレーションした展示会などは一般の方々に少しでも御刀に興味を持っていただくには良い機会かと思います。それに携わっていらっしゃる職方の皆さまの活動には大変共感を覚えますとともに、自分もお役に立てたらと思っており、またわれわれは、次代を担う若い刀職者が生き生きと希望と意欲を持って仕事に取り組める態勢を築いていくべく努力していきたいと思います。
 修業時代、御刀を研ぐ際に師匠より常々言われてきたことは、大事な御刀をいかに減らさず後世に遺し伝えてゆくか、また初心を忘れず一振一振「実意・丁寧」な研磨をさせていただくことを常に心掛けよとも教えられてきました。
 この地(富山市)に研ぎ場を構えるに至ったのは、立山連峰を臨む風光明媚な地で、思い描く研磨の仕事に打ち込んでみたかったとの思いからです。
 今研師として思うことは、古刀から現代刀まで、所持しておられるその方にとってかけがえのない御刀であり、その持ち味を十分に引き出し、御刀とお客さまに喜んでいただける研磨をと心がけております。
 諸先生方のアドバイスをいただきながら、一人でも多く愛刀家の増加、さらなる刀剣界の発展を願っております。

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