刀剣界ニュース

風向計 其ノ十二

報道によれば、四月二十五日、公安委員会の許可を受けずに客にダンスをさせたとして、風営法違反(無許可営業)の罪に問われた大阪市北区のクラブ経営者が、大阪地裁での判決公判で無罪(求刑懲役六か月、罰金百万円)を言い渡されたという。
 
判決理由の中で裁判長は、規制の対象となる営業について「客のダンスの動きなどの具体的な内容に照らし、性風俗秩序を乱す恐れがあるかを総合的に判断すべきだ」と指摘し、店内の状況を判断した上で風営法の規制対象ではなく、許可も必要ないと結論づけた。これに対して警察当局は、「住民からの苦情があったり、店内での喧嘩や薬物乱用、わいせつ事件などがある限り、規制や摘発を緩めることはできない」と、取り締まりの意義を強調している。
 
クラブともダンスとも縁遠い小欄の筆者ならずとも、このニュースは多くの人々に、示唆に富む新しい時代の流れを感じさせたことであろう。今までであったら、許可を受けずに店内で客にダンスをさせて摘発された経営者が、「性風俗秩序を乱すものではない」として無罪となることなど考えられないことであった。
 
警察の摘発に遭えば、有罪は必至であり、犯罪となるようなことなどしてはいないと主張しても、捜査機関の法運用に対しては従うしかなかったものである。ところが今回のように、摘発に当たっては、性風俗秩序を乱す恐れ、すなわち、享楽的であったか否かの違法性が立証されない限り、公判が維持されないとは。世の中、変わったものである。
 
さて、このような事件の判例を見ると、われわれの業界に最も関係の深い銃刀法の中での、第十七条(一)の所有者変更届出に関する法運用について考えさせられることが多い。この第十七条は第二十三条の発見の届け出とともに、刀剣に関係する全国民に関わることであり、自己の責に有するか否かを問わず、ある意味では一方的に降りかかってくることである。
 
それ以外の銃刀法をはじめとする諸法規は、正しく順守してさえいれば、身に累が及ぶことはなく、平穏な市民生活が約束されているのに対してである。
 
売買や譲渡、相続などの正当な手段で入手した刀剣類を、法に従って二十日以内に当該登録証発行の都道府県教育委員会・教育庁に所有者変更の届け出をすると、登録証の記載内容と台帳とが一致しないという理由のほかに、台帳に該当するものがない、既に再発行されている、輸出等の手続きで文化庁に返還済みである等の理由で変更届出が受理されない例が最近とみに増加している。
 
そして、あろうことか、正当に取得して善意に届け出た者に対して、不正登録のまま所持していれば、銃刀法上の不法所持に当たると警告され、元の持ち主に返すか、所轄の警察署に届け出て事件性の有無を確認するように指導されるケースがある。
 
昭和二十五年から刀剣類の登録制度が始まって今年で六十四年が経過し、その間に延べ二百五十万本の刀剣類が登録されている。そして、今、届け出を受理されなかった刀剣は何十年間にもわたって人から人へと何の問題もなく譲渡・相続・売買が繰り返されてきたにもかからわず、届け出たばかりにいきなり被疑者のような立場に追い込まれるとは。本人にとっては不条理もこの上ないことである。
 
この刀剣類の入手という行為が公序良俗に反し、市民の生活を脅かす違法なものであると言い得るであろうか。そもそも今日のように所有者変更の届け出が活発になったのは、警察の指導でも、文化庁の呼びかけでもなく、全国刀剣商業協同組合の設立に起因している。組合設立後四年を経た平成三年、組合は刀剣関係の諸法規を守り、警察行政・文化行政に協力する目的を持って『やさしいかたな』という小冊子を発行し、警察庁の編集協力のもとで遵法精神の高揚、殊に所有者変更届出や発見届出に関しての啓蒙を二十三年間にわたって継続させ、その結果、今日のような届け出件数の飛躍的増加をみたのである。
 
刀剣類の所持等に関する違反や事故を減少させ、ひいては刀剣を業とする者に対する社会的認知度を高めようとして『やさしいかたな』をはじめとする組合機関誌や本紙を継続させてきた努力が、かえって事業をやりにくくさせる皮肉な結果を招くとは、当初から考えも及ばなかったことである。
 
増加するテロ対策等で銃器に対する規制の強化はわれわれ国民の安全を守るためであり、警察当局の方針は十分に理解し得る。しかし、所持することそのものが違法である銃器と登録刀剣とを同一の観点から取り締まってほしくないというのが、刀剣に関わる者の願いである。
 
そのためには、われわれ刀剣商組合の組合員がまず襟を正し、真摯な態度で刀剣を取り扱い、不正や事件性のない登録証の記載事項の不備等については穏便な措置を訴えたいものである。われわれ刀剣商組合の努力により、発行時の多くの登録証の記載ミスも発見されたことであり、当局の期待する現所有者の特定も以前よりは進んだはずである。法は法として、まず、われわれ刀剣商組合の人となりを見ての法運用を願いたいものである。
 
懲役六か月、罰金百万円の求刑に対して、無罪を勝ち取ったクラブ経営者の人となりについては知る由もないが、もしも彼が札付きのワルで、常習的に違法行為を繰り返していたならば、当該事件の裁判長は無罪を言い渡していたであろうか。法は人が決め、人が裁く。故に、万一法の判断に直面した場合には日ごろの行動の積み重ねがモノを言う。日ごろから正しく刀剣を取り扱っていれば、いざという時に法も、法の運用者も、ちゃんと見てくれるはずである。

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