刀剣界ニュース

「ヱヴァンゲリヲンと日本刀」パリ展 特別報告 刀匠  

四月三十日から六月二十一日まで、パリ日本文化会館において「Evangelion et les sabres japonais(ヱヴァンゲリヲンと日本刀展)」が開催されました。
 
今回の海外展は国際交流基金(パリ日本文化会館)とABCミュージアム(スペイン)の主催により、長船刀剣博物館で始まった日本での巡回展「ヱヴァンゲリヲンと日本刀展」そのままの作品に加え、林原美術館、長船刀剣博物館などの刀剣や甲冑を展示することになりました。
 
展覧会開催に向け、国際交流基金の永田絢子氏、長船刀剣博物館学芸員の植野哲也氏、装剣金工師の木下憲宗氏とともに、私も展示要員として同行させていただきました。
 
会場のパリ日本文化会館は、パリのシンボルでもあるエッフェル塔を望む位置にあり、名前の通りフランスにおける日本文化の発信基地として、現在までさまざまな展覧会や文化事業が行われてきました。
 
私たちは四月二十一日に到着し、翌日から作品の検品、展示へと進んでいきました。今回はフランス人のデザイナーや照明担当の現地スタッフが入るなど、日本で見るヱヴァ展以上にこだわりの強い展示となりました。
 
中でも特別に用意された天井、側面がすべてアクリルに覆われている展示ケースに加え、会場全体の壁面がそれぞれの作品に関連するキャラクターやシーンの画像が施された壁紙に覆われ、作品の前に立つとその背景にリンクしてくるように考えられています。日本では通常展示の場合、刀身や拵の表面だけをきれいに展示することが多いのですが、外国では作品の全体を見たいという方が多いようで、今回このような展示となりました。
 
また、照明にも大変こだわりが強く、会場全体が暗い雰囲気の中で作品の一つ一つが浮かび上がるように、アクリルにも一切の照明の反射や映り込みがないよう工夫されていました。
 
しかし、日本刀の展示においては、照明の良しあしで作品自体が全く見えなくなってしまうこともあります。おおまかに地鉄や刃文への照明の当たり具合などをスタッフに説明すると、早速その点も配慮され、次第にそれぞれの作品の質感が日本で見るのと相違のないものに変わっていきました。
 
メインのロンギヌスの槍の展示角度や、甲冑や兜の展示バランス、それぞれの作品の間隔など、木下氏を中心とした展示メンバーも現地の方々の熱意に負けじと、慎重かつ丁寧に、少しでも来場者に魅力が伝わるように工夫しました。
 
作業四日目には日本刀の説明や、作品に携わった職人のバナー、製作工程の映像、ヱヴァンゲリヲン初号機やレイ・アスカといったキャラクターのフィギュア、アニメの原画パネルなどの展示もほぼ完了し、会場全体の雰囲気が一層締まった感じになりました。
 
内覧会前日には日本から国際交流基金や、ヱヴァンゲリヲンを管理するグラウンドワークス社の担当の方々が到着され、今回の展覧会コーディネーターであるイタリア在住の平井智氏を交え最終チェック、細かな修正点を踏まえ、パリ展独特の素晴らしい会場が完成しました。
 
その夜、パリ日本文化会館の竹内佐和子館長との懇親の席では、パリには親日の方が多くいらっしゃることや、さまざまな分野の方が展示会や講演などを通して日本文化啓蒙に尽力してこられたことを伺い、日本刀の分野でもようやく一歩が踏み出せるのではないかと感無量でした。
 
内覧会当日はあいにくの雨天でしたが、プレスや一般招待客(文化会館の会員、美術・教育機関、ジャパン・エキスポ関係者など)二百八十名を超える来場がありました。
 
お客さまの滞在時間は長く、三.四時間ほど会場にいらっしゃる方もおられ、作品や解説を丁寧にご覧になり、われわれ関係者に質問をされるなど、とても熱心でした。また、若い方から年配のお客さま、お子さま連れの方までおられ、ここまで幅広い層のお客さまがお見えになることは非常に珍しいとのことでした。
 
共同通信社や現地ケーブルテレビの取材なども入り、この日の内覧会の様子は、日本でも新聞やネット配信のニュースで紹介されたようです。
 
開催初日には、木下氏の講演と刀身彫刻のデモンストレーションが十五時と十七時の二回行われました。通訳を介しての講演でしたが、日本刀文化の流れや専門である刀剣彫刻について熱心にメモを取る方が多数見られました。また、デモンストレーションでは木下氏の繊細な龍の鱗を彫る鏨使いを間近で見ようとする方であふれ、次々に質問も飛び交うなど、最後まで熱気に包まれました。
 
私も応対などをお手伝いしていたところ、祖父(月山貞一)の写真を持った方が話しかけてこられ、大変感銘を受けました。来場された皆さんは日本の伝統職人に高い関心を持っておられ、日本刀に携わる私たちにも尊敬の念を持って接していただいたことは心より感謝するところです。講演と実演は定員六十名でしたが、両回とも満席になり、盛況で終わることができました。 

私たちは翌五月二日に帰国したのですが、五月五日、何と欧州を歴訪されていた安倍総理が日本文化会館を訪れ、「ヱヴァンゲリヲンと日本刀展」を視察されたとのビッグニュースが飛び込んできました。その中で総理は、「現代のアニメと古くからの刀工技術をコラボするというのは、世界に発信していく新しい一つの形だ」とおっしゃっていました。 「ヱヴァンゲリヲンと日本刀展」はパリ展終了後、スペインのABCミュージアムにて開催されます。
 
日本での開催では、愛刀家の方々の高齢化ということを考えると、より多くの若い世代に日本刀を見ていただき、少しでも興味を持ってもらうことが必要だと感じていましたが、今回パリ展に同行し、世界的に認知されている現代の日本文化の代表であるアニメと伝統文化の象徴である日本刀がコラボする意義は、まさしく首相が指摘されたように日本を世界にアピールしていく上で大きな要素になっていくことであると、あらためて感じました。
 
私自身も大きな展望を持って、その目標に向かって、一層の研鑽に努めてまいります。

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