刀剣界ニュース

実物大の刀剣を リアルに漆でレリーフ

今回ご紹介するのは、漆芸家の新義隆さんです。埼玉県所沢市の工房を訪ね、取材させていただきました。
 
新さんは昭和三十二年十一月、同所の生まれ。世界でただ一人、漆刀を製作する注目の作家です。
 
漆工芸の技術を兄の光忠さんに習い、漆の世界に入ったのは二十二、三歳ころで、既に三十五年ものキャリアです。
 
初めは茶道具や蒔絵を主とし、時折、刀装具の補修などを手がけ、平成元年に坂東一工房を興して漆芸のすべての工程を一人で行うようになりました。
 
現在の漆刀を制作するようになったのは平成九年ごろからで、銃砲刀剣類登録審査員であった父上の市郎氏(大正十二年生まれ)の影響を受けてのことだとか。
 
恐る恐るではあるが刀剣を見る機会に恵まれ、幼少のころから刀に美しさを感じていたそうです。青江貞次の木型を頼まれ、木を削りながら、その何ともセクシーな曲線に魅せられたことから、刀を主題とする漆芸作品を手がけることになります。世に聞こえた名物名刀を蒔絵で作り続け、間もなく五十作に届きます。
 
蒔絵の歴史は千数百年あり、古臭いと言われがちですが、新さんの漆刀は見たことも聞いたこともなかった無二の芸域です。地肌や刃文に工夫を凝らし、制作には半年以上かけて、究極の銀蒔絵が完成するのです。
 
完成した漆刀は木製の額に入れ、背景には、新さんが巡り見てきた坂東武者所縁の地の風物を描いており、作品を情緒豊かにしています。本人曰く、「銀」と「黒」の取り合わせが好きで、金属と漆という相反する素材を用いて鍛えた鉄を表現することは、難しいけれども楽しいそうです。
 
一番気を使うところは、愛刀家に納得してもらえる作品かどうかという点で、本歌との違いを指摘されたりしながら、完成度を高めてきたそうです。
 
リアルな作品であるところから、米国での展示を終えて送った折、税関に押さえられたことがあったとか。新さんはニンマリと笑いながら、「あの一件はアーティストとしては勲章をもらった感じです」と語っていました。
 
作品は、東京銀座のギャラリーポートをはじめとして、アメリカンクラブ、岡山・テトラヘドロンのギャラリー、京都の下鴨神社などでの個展のほか、東京美術倶楽部アートフェア、三越逸品会、高島屋ばらの会などの催しにも出展しました。京都清水の三年坂美術館には、代表作品の光忠と次直が収蔵されています。
 
海外でも、ロンドンContemporary Japanese Lacquer 2008、ニューヨークChristie’s Arts of the Samuraiで発表、フロリダとニューヨーク刀剣ショーにおいてはグループ展と大活躍です。
 
一般の方の中には刀は怖いものと、少々偏見もあるようですが、新さんの作品を見て刀に対する見方が変わったとおっしゃる女性のお客さまも多いとか。この事実は、刀剣業界にはボーナスとなる話にも発展する可能性を秘めていると思います。
 
新さんは現在、土方歳三佩刀の和泉守兼定を制作中ですが、これからは髭切・鬼切丸など失われた伝説の名刀や、弁慶の薙刀、近藤勇の虎徹などストーリー性がある作品にも製作の幅を広げていくそうです。
 
漆刀は、これからも私たちを楽しませてくれること間違いなしです。実物大の刀剣をリアルに漆でレリーフする漆芸家、新さんをみんなで応援していこうではありませんか。

Return Top