刀剣界ニュース

日本の美風と 伝統文化のために

連日猛暑日が続きますが、この夏の熱を少し刀剣界にも分けてもらいたいと思う今日このごろです。
 私は研師を父に持ち、幼いころから刀を研ぐ父を見て、漠然と跡を継ぐものと思っていました。しかし、初めて刀を持ったのは、研師になりたいと父に告げた高校三年生の夏休みでした。初めて手にした刀は、予想を超えてはるかに重く、鮮やかに光り、背筋の伸びる緊張感があったことを今でもはっきりと覚えています。
 高校卒業後、藤代興里先生に弟子入りし、十二年間修業させていただき、埼玉県狭山市にて独立しました。研磨は無駄に減らさず、刀の寿命を縮めないこ
とが一番大切なことだと教わりました。
 独立をして七年がたち、最近思うことは、若い世代にはほとんどと言っていいほど日本刀が浸透していないことです。
 刀と言えば、凶器というイメージしか持たれず、怖いという感想で終わってしまう。これでは業界のみならず、日本文化にとっても危機であると思います。もちろん日本の美術品は日本刀だけではありませんが、日本刀が日本の歴史と共にあったことは間違いありません。
 今では若い世代より外国人の方が日本刀に興味を持って勉強したり、鑑賞したりしているようです。海外の方に話を伺うと、自国を愛し、自国の文化を知り、その上で日本文化に触れて日本刀に惹かれたと、口をそろえておっしゃいます。
 日本刀は、日本人特有の精神性と美意識によって生まれた美術品です。一振の刀が所持者の命を守り、時には一国の運命をも動かす宝であったこと、それは現代においても生み出されていることを、すべての日本人に知ってほしいと思います。
 現実には家の守り刀、子の守り刀というわが国の美風は薄れ、嫁入り短刀は単なる衣裳の私は、一人でも多くの方に日本刀の美しさを感じてほしいと思います。そのためにも日本刀の魅力を最大限に発揮できる仕事をし、研師としての誇りを忘れず、負託された責任を全うし、業界発展のために微力ながら精進してゆく所存です。

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