刀剣界ニュース

武士道を描く映画「蠢動」を当組合が推薦 10月19日封切、有楽町スバル座などで

★正義と忠義が交錯する本格時代劇 
70年代後半に一世を風靡した「子連れ狼」。主人公拝おがみ一刀が携えた同田貫はいまだに人気が衰えないプレミアム刀剣と言えます。それなのに、時代劇のテレビ放映は年を追うごとに少なくなり、今や風前の灯。時代劇は、若い世代にとってますます遠い存在となってしまいました。
 われわれ刀剣商はその影響もあって、刀剣愛好家層の高齢化・縮小化という課題に直面しており、若い世代の掘り起こしは喫緊の課題となっています。時代劇のイメージは刀剣に直結するものであり、時代劇ブームの再来はわれわれの願いです。
 そうした思いを抱く中、刀剣商にとって最大のイベントである「大刀剣市二〇一三」の開催一週間前の十月十九日に、本格正統時代劇映画「蠢動-しゅんどう-」(英語版タイトルBUSHIDO)が封切になるというニュースが飛び込んできました。
 「蠢動-しゅんどう-」は、享保二十年(一七三五)、山陰の因幡藩が舞台(因幡藩は実在せず、鳥取藩がモデルか)。ストーリーは、幕府から差し向けられた剣術指南役が密偵した藩の内情が公儀に知れれば藩は改易、それを阻止するために展開される、それぞれの正義と忠義の武士道映画です。主なキャストは、平岳大、若林豪、目黒祐樹、中原丈雄、さとう珠緒、栗塚旭、脇崎智史ら。
★観たい映画を創りたい
 この映画の製作・監督・脚本・編集を一人で手がけた三上康雄氏は、「今、自分の観たい時代劇はない。だから自分で創る」という思いで、これに取り組んだといいます。昭和期の名作「切腹」「上意討ち」「仇討」に肉薄せんとするこの時代劇は、それぞれが己の意志を貫こうとし、武士道と人間道に揺れ動くさまを描写しています。映像は雪の中で走る、斬る……和太鼓から奏でられる緊張と荒々しさがクライマックスへと観る人を誘ってくれるでしょう。
 われわれ「大刀剣市」実行委員会は、今年の大刀剣市と映画「蠢動-しゅんどう-」が共同して相互の成果が図れないものだろうかと、先般来、製作側とのやりとりを行ってきました。
 まず、映画そのものを把握する必要から、八月二十八日、委員十名が試写会に参加しました。
 また、試写会に先立って、深海理事長には「蠢動-しゅんどう-」をご覧いただいた上で、三上監督との対談に出席してもらいました。
★あらためて刀が見直される好機
 深海理事長が切り出しました。 「時代劇が盛んなときは、人々の興味や関心が刀とか兜に向きました。しかし、盛んであったころの愛刀家世代は今や七十代、八十代の人たちです。当時は『切腹』や『上意討ち』があり、また、新撰組なども積極的に取り上げられました。東千代之介、中村錦之助などが活躍する時代劇を観た人たちが、今日でも刀剣ファンの核なのです。
 以前は時代劇がテレビや映画で繰り返し上映されることによって、時代劇で演じられた当時の風俗の最たるものである刀や鐔、鎧兜などに自然と関心が向くものでした。それが最近はありません。また今の時代劇は丁ちょん髷まげに刀を差している格好だけで、その内容は現代ドラマのようであり、武士道とは違います。
 ですから、今の人たちには刀や鎧といった往時の風俗に対する関心が、昔の時代劇を観た世代ほどには持てない。刀離れ、武士道離れが著しくなって平成の時代を迎えていると思います。何の争いもありませんから、いよいよ平和ボケしてしまいます。昭和三十年代、四十年代にも争いはなかったけれども、時代劇が公開されるたびに、遠い江戸時代を偲んだり、昔はこういうことがあったのかと想像し、刀を手に取って見てみたいとか、鎧兜を纏ってみたいとか思ったりしたものでした」
また、「こういう本格的な時代劇の観客動員数が増えて、観た人に感動を与えられるなら、昔はあのようにして、刀一本で心の問題、藩の問題、国の問題を解決したのか、最後は刀なのか、そのくらい刀は神聖なものなのかと昔を感じてもらえるでしょう。刀は軍隊の鉄砲や兵器とは違います。神聖なもので、最後に決するものです」とも語りました。
 監督も、「刀は単なる武器ではなくて、精神的なところに価値がありますからね」と、期せずして同じ意見です。
★あなたにとって主役は誰?
 さらに監督は、「僕は見終わった人に、あなたにとっての主役は誰ですかと聞くと、原田(平岳大)と言う人もいれば、香川(脇崎智史)と言う人もいるし、荒木(若林豪)だと言う人もいる。舟瀬(中原丈雄)と言う人もいます。観る人それぞれの立場で、社長さんや重役さんは荒木に感情移入し、社長室長とか秘書室長さんは舟瀬に、課長さん、部長さんは原田にというように、観ている最中誰かに感情移入したくなり、主役は誰なのだろうと探すのでしょうね」と語り、この映画が登場人物それぞれの立場でいかに正義を貫こうとしているかを伝えてくれました。
 お二人が語り合ったことは多岐にわたりました。斬り合いの場面における音響の話、切腹や介錯における刀の話、二本差しと短刀に
ついて、時代劇に適した時代について、撮影の際の模造刀について、登場する刀は因州兼先であろうこと、享保時における公儀隠密の話、密貿易の話、「業物」の時代考証など、とても興味をそそられる内容でした。
★大刀剣市との相乗効果目指して 
予定の一時間が瞬く間に過ぎ、対談は成功裏に終わりました。
 その後、実行委員は試写会に臨みましたが、映画の印象は「久しぶりに本格的な時代劇を見た」「一人ひとりに存在感があった」「力作である」など、皆好意的でした。
 そこで、大刀剣市と映画「蠢動-しゅんどう-」が相互の集客増を図るべく協力していくこととし、今回この映画「蠢動-しゅんどう-」を全国刀剣商業協同組合で推薦することになりました。  組合員の皆さまにはご協力を賜り、お送りする「蠢動-しゅんどう-」のポスターを店舗に掲示するなど、できる限りのPRをお願
いします。なお、チケットの割引販売も組合事務局で取り扱っています。ぜひお申し込みください。
 今年の大刀剣市には、三上監督にご来場いただく予定です。併せてキャストの方々にもご案内しておりますので、会期中、スクリーンに登場するスターの皆さんにお目にかかれるかもしれません。
 これからも良質な時代劇映画が盛んに製作されるよう、刀剣界が一丸となって知恵を出し、働きかけを行っていきたいと願っています。(松本義行)

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