刀剣界ニュース

「大刀剣市」の銘切りコーナーは 絶好の出会いの場

私が「大刀剣市」の現代刀匠銘切り実演コーナーに参加することになったのは、「短刀小品展」への出品がきっかけです。
 
短刀小品展はある時期まではデパートで開催されていたのですが、それができなくなり、大刀剣市の会場の一部を提供していただくことで、引き続きコンクールと即売が可能になったのでした。
 
私も小品を出品していたので、足手まといにならないようにお手伝いをさせていただくことにしました。あのころは広いスペースを提供してもらい、たくさんの作品を展示していました。ゆっくり見ていただけるように、休憩用の椅子も置いてありました。
 
会場に立っていて、お客さまへの説明と案内だけではもったいない。せっかく全国から有名刀匠が来ているのだから、喜ばれて、少しは全日本刀匠会の財政の足しになればと、文鎮などへの銘切り実演が始まりました。
 
作品を買わなければ頼めないような刀匠に、少しの金額で好きな言葉や絵などを切ってもらえるとあって、大盛況でした。一会期で百本切ったこともたびたびありました。そのころは受付を担当しましたが、目の回るような忙しさで、終了後の会計処理も大変でした。
 
その後、短刀小品展はお守り刀展に発展し、岡山の備前長船刀剣博物館で開催するようになり、大刀剣市の銘切り実演は刀匠会関東支部が主体で行うことになりました。今では意欲的な若手刀匠が運営の中心となり、開催ごとに手慣れてきて、誠に頼もしい限りです。
 
お客さまの注文の中には、私らには手に負えないアニメのキャラクターや名前などもあり、そんなときは若手に助けてもらったり、海外からのお客さまに対応してもらったりと、助かっています。
 
今では最盛期の売り上げには到底及びませんが、それでも手ごろな価格の小物などが売れ切ってし
まうことがあります。次回はこんなものが売れるかもしれないと思って仕込んだ作品がズバリ売れたりすると、うれしいものです。
 
作品を買っていただくのはなかなか思うように行かないものです。職人をしていると人に接する機会が限られているので、大刀剣市は多くの方の意見や好みが聞けて会話ができるいい機会です。
 
あと半年で、第二十八回の大刀剣市がやってきます。今年はどんな言葉や絵柄を刻むことになるでしょうか。また多くの皆さまとお会いできることを楽しみにしています。
■一筆啓上
 
大刀剣市の現代刀コーナーで愛嬌のある笑顔で誰にでもわかりやすく説明するあの人が、今回の若者広場に登場となった。そう、若者と言うには少々トウが立った印象となる山下浩郎さん(刀匠銘「浩」)だ。今までこのコーナーに登場してもらった若手刀匠の兄貴分と言って差し支えないだろう。
 
氏との出会いはかなり古いものとなる。葛飾区高砂の吉原義人刀匠の日本刀鍛錬道場で日刀保東京都支部の見学会があった時のこと、義人刀匠の火造りと、子息の義一刀匠の焼入れを見学させてもらうかたわらで、かいがいしく細かい説明やお茶出しを笑顔でしてくれた青年が、この山下さんだった。あれは何年前のことだろう。
 
先日偶然お会いした吉原義一刀匠に「山下さんは人柄が良いですね」と話すと「えっ、そうですか」と、そうばかりではないのですよ、という言葉を飲み込んだような反応だ。そりゃそうだ。みな刀匠たちは自分の信じる道をがむしゃらに進み、頑固でない者はいないくらいだ。義一刀匠も山下さんの気骨を目の当たりにした一人なのだろう。
 
笑顔の向こうの隠れた闘志、使われすぎている言葉だが十分うなずける。気骨あふれる作品を待とう。
 
一つ思い出した。その鍛錬道場の見学会に、額のニキビも初々しい長身の中三か高一くらいの少年がいたことを。その少年こそ今は家庭を持ち、わが業界で大輪の花を咲かせつつある飯田慶雄氏であることを。さて何年前のことか誰か教えてくれないかな。
(綱取譲一)

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