刀剣界ニュース

人と人とを繋つなぐ刀

ポーランド日本刀協会は、半世紀以上の歴史を誇る「古武具と紋章愛好家協会」に所属し、国内での日本刀の文化の普及に取り組んでいます。
 
ポーランドには昔から日本人の魂を象徴する刀に魅せられた人が多く、各地の博物館と個人コレクションには貴重な作品がたくさんあります。日本刀協会の私たちも、刀の持つ究極的な強さと美しさに心を奪われ、それを生み出した歴史・思想・技法について自力で学んでいます。そして、ポーランドで開催される勉強会・展示会、あるいは出版された専門書を通じて日本刀への関心と理解をさらに深めようしています。
 
しかし、日本人の刀剣の専門家との交流がなく、限られた資料で理論的な知識を得た私たちは、刀について実践的なノウハウが欠けていることで悩んでいました。そのような中、二〇一二年に出張でポーランドを訪れた居合剣術と日本刀を趣味とする白髭修一さんと出会いました。
 
日本人の愛刀家との初対面で緊張する私たちは、持参した刀を机に並べて感想を伺いました。ところが、刀が鞘から抜かれた途端、日本刀の愛好家に共通する感情が湧き上がり、当初の緊張感が消え、私たちが強い絆で結ばれていることを実感しました。そして、ポーランドにある作品の保存状態への心配や、私たちの知識不足などについて相談して、協力をお願いしました。
 
この出会いを契機とした皆さま方のご尽力のおかげで、二〇一三年に備前長船刀剣博物館の植野哲也学芸員を団長とする調査団がポーランドを訪れ、各地の博物館で日本刀の現状を調べました。
 
その活動の一環として、トルン地域博物館での「鐔―日本の装飾芸術の傑作」展の開会式への出席とともに、大勢集まったポーランド人のために講演と実演が行われました。トルンで団員の皆さまと共に過ごした時間は、日本刀協会の私たちにとって、長い間抱いていた夢を叶える幸せな時でした。白髭さんに刀と剣客の境地の世界に導かれた私たちは、植野さんのお話から日本刀の聖地である備前長船が生み出した刀に思いを馳せ、漫画家のかまたきみこさんには、短刀の外装・刀身彫刻のデザイン実習を通して刀への親しみを感じさせていただきました。
 
そして、全日本刀匠会の三上貞直刀匠の作品を鑑賞した後、鍛錬と焼入れの実演会場である市庁舎中庭に向かいました。寒い夜に飛び跳ねる火花の中に映える三上刀匠の白い装束、火と水の力を借りて作り上げられる鋼の魅力に、私たちは目を輝かせていました。
 
公益財団法人日本刀文化振興協会の阿部一紀さんが、研磨の仕上げで最も秘伝とされる技術を実演した日本の手仕事は、ポーランド人研師はじめ来館者の方々に深く感動を与えました。石崎三郎さんからは鞘の役割と丁寧な手入れを学び、刀を適切に保管する必要性を再認識しました。木下宗風さんと片山重恒さんからは刀と鐔を飾る彫り物の意味と美的感覚について伺い、理解を深めることができました。
 
さらに、実演を見たポーランド人は、日本刀が優れた技と個性を持つ多くの職人の協力によって作られていることに感激していました。まさに三上刀匠のモットー「自他共生」を実感する大変貴重な経験でした。
 
鐔展の学芸員でもあったクシシュトフ・ポラック日本刀協会名誉会長はそのときの思い出を次のように語っています。「トルンの博物館に集まったポーランドの人々は、日本の皆さまと触れ合うことによって刀の知識を深めるとともに、日本刀には人と人を繋ぐ力があることを自覚したに違いありません。昔、人の絆を斬るために使われた刀は、今国境を越えて、人と人の絆を深めています。」
 
また、トルン地域博物館のマレック・ルブニコビッチ館長は「日本の皆さまの参加により鐔展が高く評価され、昨年、文化大臣からわれわれにとって最も名誉ある『シビッラ2014年』賞を受賞しました。皆さまのご協力に御礼を申し上げます」と述べられています。
 
私たちの協会も、このようにみんなに喜ばれる交流がさらに発展するとともに、この絆がポーランドにおける日本刀の補修や実践的な知識を持つ専門家の育成など、私たちだけの力で解決できない多くの課題に対する光明となることを心より望んでいます。
 
現在、古刀から現代刀までの展示会の来年開催を目指して、その可能性を探っています。皆さま方のご協力を得て、ポーランド国内にある日本刀の補修、およびポーランドの人々の日本刀の強さと美しさへの理解を深める機会がぜひ実現できるように努力してまいりたいと思っています。
 
日本の調査団の皆さま、ならびにその貴重な機会をつくってくださった関係機関の方々に厚く御礼申し上げます。
(翻訳はワルシャワ在住の小見アンナさん)

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