刀剣界ニュース

人間国宝の誕生を熱望する

昨年は重要無形文化財指定制度が施行されて六十周年に当たり、日本伝統工芸展も六十回を数えた。人で言えば還暦・耳順である。これを記念して今春、東京国立博物館では初めて、「人間国宝展」が開催された。
 
言うまでもないが、文化財保護法に基づき、「演劇、音楽、工芸技術その他の無形の文化的所産で、我が国にとって歴史上又は芸術上価値の高いもの」を無形文化財とし、そのうち重要なものとして指定されているのが重要無形文化財、そして連綿と受け継がれる芸や技を高度に体得していると認定された人が重要無形文化財保持者、いわゆる人間国宝である。
 
近年ではユネスコの世界文化遺産や無形文化遺産の認知とも相まって、その先駆けであるわが国の重要無形文化財や人間国宝に一層の注目が集まっている。人間国宝展にも連日きわめて多くの来場があったといい、誠に見応えのある展観であった。
 
しかし、われわれ刀剣界の関係者にとって残念なのは、展示作品が過去の人間国宝のものばかりだったことである。高橋貞次・宮入昭平・月山貞一・隅谷正峯・天田昭次・大隅俊平(以上「日本刀」)・本阿彌日洲・小野光敬・藤代松雄・永山光幹(以上「刀剣研磨」)・米光太平(「肥後象嵌・透」)と累計で十一師を数えるが、昨年、天田師が亡くなられて斯界の人間国宝は皆無となり、日本刀も刀剣研磨も重要無形文化財の指定が解除されたままである。
 
これはゆゆしき事態である。この世界で生きる刀匠や職方、刀剣商などにとって問題であるだけでなく、貴重な歴史的遺産である日本刀の保存と伝統の継承にとって大きな危機である。日本刀で二人、刀剣研磨で二人が、あたかも定席であるかのような錯覚も実はあった。今になってわれわれは、人間国宝の存在の大きさ、人間国宝が内外に発信していた価値の貴重さを思い知らされている。

刀匠や研師にとどまらない。ひときわ優れた技術を持ち、なお錬磨を重ね、伝承者の養成に尽力し、人格・識見に優れ、何より日本刀を愛し、日々その保存と啓発に邁進されている方は、この世界に少なくない。
 
あえて申し上げたい。今こそ人間国宝の誕生を。これを刀剣界全体の意思として、一人一人が確認されることをお願いする。

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