刀剣界ニュース

一億総買い取り時代

「趣味のうんちく」についての原稿の依頼を受けたのですが、旅行だ、音楽だ、スキーだ、はては刀装具鑑賞だなんて言っても、私には今さらの感なので、新聞やネットを見ての〝うんちく〞へ話題を無理やり誘導します。
 
最近、新聞でも街中でもネット上でも目につくのは「買い取ります」「買い取り専門店」「買い受けます」というフレーズです。わが刀剣業界でも、今では「展示即売会」の広告より「買い受けます」の方が多いようです。  以前から「高価お買い上げ」という広告はよく目にしましたが、それは骨董・ジュエリー・車・ピアノなど、特定の業種に限られていたようです。それが今は書籍・古着・カメラ・ゲームソフト・お酒・ランドセル・農機具・ガス給湯機、そして電力も登場です。不満買い取りセンターなるものまで現れました。
 
あのヤフーも「流れに乗れ」とばかりに、オークションだけでは飽き足りず「ヤフー買い取り」を始めています。得意の大量ばらまき、買い取りメール作戦実行中。楽天・アマゾンも追随しています。
 
わが家にもいろいろなところから電話が来ます。「掛け軸あったら買いますよ」「貴金属買い取りますよ」「不要品ありませんか」とか。あまりに加熱する買い取りブームに、押し買い規制法までできました。
 
過去にも、バブルのころは一億総不動産屋・一億総株屋、テレビ番組の影響で一億総鑑定家・一億総骨董屋、健康志向時代には一億総マラソンランナーなどと言われたことがありました。そこで現在の世相を勘案して、冒頭のタイトルになったわけです。
 
さて、ここで一層注視したいのは、買い取り専門という業種形態です。この世の中で買い取り専門という業態が成り立つのか―。
 
集める一方と思われがちな愛好家・収集家の人たちも、実際にはかなりひんぱんに売り買いしていると思われます。そう、ビジネスの世界では買いと売りが両輪として成り立っているわけで、片方だけで存立し得ないことは自明の理です。
 
ビジネスの機智で生まれたであろう「買い取り専門店」。その言葉に、私は妙に不思議な感覚を覚えます。実際は売るために買うわけですが、「売る行為」を無色透明にして一切触れずに、一般の人に「買い取り専門」とアピールすると、かなりの効果が期待できるのでしょうか。
 
およそ商売に縁のない人でも、現代文明社会では買いと売りの行為には無縁でいられません。ましてや自分の所有していたモノがどういう経路をたどって、最終的にいくらの評価で、どこへ行き着くのかは、大いに気になるはずです。今はやりの宅配買い取りならば「ハイ届きました。〇万円です」「じゃあ、それでお願いします」と、世間話の入る余地なく簡潔です。想像ですけどネ。
 
対極的なのが、売却方法を提示あるいは公開しての買い取りです。
 
中古車のガリバーは二、三年前までは買い取った車を展示せず、すべて全国ネットの中古車業界オークションへ流す。ブックオフは定価の十分の一で買い取り、きれいに装丁して定価の二分の一で店頭に並べる。農機具は、言わなくても中国・アジアへ持っていくのはわかる。不満買い取りセンターは、不満を十円で買い取り、企業に五円で売るそうだ。モノでなくノウハウだから、無限に売れるわけだ。一円でも売れる。
 
あとの大部分が、買い入れたその場(店)で売るという形態。古典的と言えばそうかもしれないな。
 
めざとい愛好家ならば「買い取り専門店」と聞いたら、オッ、いっぱい品物買い取って集まってるな、面白いものありそうだ、売ってもらいに行こう、買い取り専門だから売ってくれないかなぁ…あれーっ、バーチャル店舗が多いなぁ…。 「買い取ります」の広告でそんなにたくさん買い取ったなら、売ってくれという予期せぬ問い合わせも多いでしょう。想像ですけどネ。逆説的に言うと、買い取り専門は意外と効果的なセールス販売広告ナリー。
 
最初から目論んでたわけではないでしょうけど、意外な方向に展開していくのがビジネスの面白いところですね。

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