刀剣界ニュース

風向計 其ノ二

刀剣業界を襲う不景気

 刀剣業界の景気動向を観察し、それにタイムリーな解説を試みる目的で本欄は設けられた。今回も本来ならばこの第6号が発行される七月半ばから第7号発行予定の九月中旬までの二カ月のスパンで、刀剣界に吹く風の速さそして潮の流れを、一般経済の諸指標を参考に眺める予定であった。

 ところが五月初旬の一名を皮切りに六月に相次いで三名、計四名の倒産が二カ月以内に表面化し、刀剣界は総額五億円(弁護士事務所からの通知による合算金額。一般愛好家にも被害は及んでおり、実際はこれを上回ると予測される)以上に上る被害を被った。しかもこのうちの三名は、組合員が投票で選んだ現職の理事である。

 過去にも刀剣業者の倒産の例なしとはしないが、これほど短期間に複数の支払い不能者が出たことはこの五十年間を見てもなく、業界は強風に煽られた上に、足元は激震に見舞われた感がある。
 
 従来は支払い不能に陥った同業者に対しては、一部の多額債、務者を除いては概して寛容で業界を去った後までも鞭打つような言動は聞かれないのが常であった。それは第一に、長年の同業で取引もあり、親しく交わった時期もあった人が、何らかの事情で行き詰まったことを責めないという優しさと、諦めの気持ちのなせるものである。
 
 第二は、多額の不払いが生じた交換会であっても、ほとんどは共同出資の会であり、 一年間、あるいはそれ以上の期間の歩金収入で穴埋めが可能となり、個人的には出費が伴わない場合が多いことである.。
 
 第三に、支払いをせずに姿をくらました債務者を追及する時間も手立てもなく、債権者各自によっても事情が異なり、法的措置の取り方もわからないという実情が挙げられる。仮に相手にたどり着いても支払い能力はなく、徒労に終わるよりは、自ら反省し明日からのさらなる努力によって取り返すという気持ちに切り替えざるを得ないというところであろう。

 このような刀剣業界の甘い体質を突いて、今回の一連の不払い事件は引き起こされた。それも弁護士事務所からの突然の文書によって、債権者に通知があったのみである。

 本欄は業界の景況を観測するのが使命ではあるが、これほど一度に同様の方法で支払い回避が続出する事態を迎えては、仮に景況感に上向きの兆しが感じられたとしても、それを筆にするのは債権者に対しても不謹慎であり失礼でもあろう。商売に行き詰まって倒産を余儀なくされた者にも、それなりの事情はあろう。しかし巨額の債務を、弁護士からの通知のみで幕引きとする業界の体質が改められない以上、次にも同様の手口で事業を終わりにする者が続くかもしれない。
 
 寛容と放置の繰り返しでは、業界の信用は揺らぐばかりである。一般の経済社会の法則に準じて、粛々としかるべき手続きを執るべきであろう。風と商人は曲がらなくては立たない、という言葉は言い得て妙ではあるが、それはあくまでも下地が平らであることが大前提のことである。社会共通のコンプライアンスの上にこそ風は立つのである。

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