刀剣界ニュース

風向計 其之五

刀剣界の生命

平成も二十五年目を迎えようとしている。組合も満ニ十五年が経過し、その歩みはまさに平成と時代を一にしている。
ここ数年間は経済の諸指標の動きも低調で、世には不景気風が蔓延しているが、私たち業界のこの二十五年間はどうであったか、数字を眺めてみよう。
経済を表す金利動向の指標としては、日経平均株価、国債利回り、GDP、対ドル・ユーロ相場、コールレート、米国FFレートなどが挙げられるが、一番の基準と考えられているのは日経平均株価であろう。
この原稿を書いている時点では、二〇一一年三月の震災以来の高値とはいえ一万四百円前後で推移している。この株安によって世の中が不景気であるとされ、故にわが業界も振るわないのであろうと考える向きも少なくない。しかし、株価はニ十五年前こそ二万七千円をつけてはいたが、十年前の平成十五年には七千七百円の時もあり、円高ドル安とはいっても現在の八十六円が不景気の極みかというとそうではなく、平成七年には八十三円の時もあった。さらに言うならば、GDP(国内総生産、連鎖方式)実質年度を見ると、平成二十四年度は0・091であるが平成十三年度はマイナス0・1、平成十年度はマイナス1・5の数値を示しており、新発国債十年物利回りも現在の0・8に対して、平成十五年には0・5、平成十年には0・82の数値を示したこともあった。
さて、このように現在の経済指標の動きを下回った時期のわが業界はどうであったかを振り返ってみると、対ドルレートが七十九円を記録した阪神大震災の年の平成七年、国債利回り・GDPともに落ち込んだ小渕内閣の平成十年、株価が最低の七千七百円をつけ、国債利回りも最低の0・5%となったイラク戦争時の平成十五年、いずれを取ってみてもわが業界は危機的状況にはなく、小異はあってもおおむね順調に平成不況の山を乗り越えてきたと言い得よう。
しからば何故に、平成十九年に米国サププライムローン問題による世界同時株安と、翌年のリーマンショックに端を発した現在の不況が、今までになくわれわれに重くのしかかっているのであろうか。
さまざまなことが考えられるが、何と言っても平成二十三年の東日本大震災の影響が第一に挙げられよう。このことは、生命やモノの破壊にとどまらず、人のマインドまでも消沈させた未曾有の出来事であり、経済の立て直しを大幅に遅らせる最大の要因ともなった。
第二は、異論もあろうが、政権運営に不慣れな民主党による経済政策が必ずしも奏功しなかったことが考えられる。
第三は、米国と、ギリシャをはじめとするEU諸国の不況が、わが国の足を引っ張り続けたことも否めない事実であろう。
第四には、やはり業界特殊事情であるところの、同時期大量五名の交換会不払い事故発生も業界冷え込みの大きな原因であった。
第五番目に挙げられるのは、不況とは関係ないが、従来までの少人数のムラ社会からの業界の変貌が挙げられる。従来は修業を経て独立開業、あるいは親から子への事業継承といった互いに濃密で小さい社会から、パソコンの普及に伴いインターネットなどを駆使して他業種から参入する業者が増加して業界のパイが大きくなり、ムラ特有の慣例から前進して一般企業の考えに近くなった。従って、他業種並みに経済諸指標の動きとの連動性が高まっていると言うことができ、世の中の好不況とは関係無という特殊な商売ではなくなりつつあると言い得よう。  このような状況下にあるわが業界も、平成二十五年度はこれら多くが払拭され、再び活況を取り戻す公算が強い。
まず第一の震災後復興については道筋がつけられ、復興需要とも言うべき追い風に転じかねない勢いが見られること。
第ニは自民党安倍政権による大規模な経済対策により、景気上昇の期待感が人の心に宿りつつあること。
第三の米国をはじめとする諸外国にも景気改善の動きが見られること。
第四の業界特殊事情のショックも、時とともに和らいできていること。
第五の業界の経済構造の異質化も、徐々に同質化・安定し、より前向きに業界の近代化を図る土壌が整いつつあること。
これらの観点から、来年度を好転気配と占うことができる。数学で見てきたような、過去の不況下を乗り越えられたのは、いつの時代にも存在する富裕層であるわれわれの顧客のおかげでもある。愛好家である顧客の期待を裏切らない商売こそが、われわれの生命である。
品質と価務と、商人としての誠意こそが展望を開く鍵と心得て、日々さらに精進を重ねたいものである。

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