安倍政権の経済政策が功を奏し、日本経済にも明るい展望が開けていることが肌で感じられる昨今である。わが国だけでなく、アメリカにおいても雇用統計の改善を受けダウ平均株価は大幅に上昇し、一万五千ドルを突破する勢いを見せている。
アメリカ国内に景気回復への期待感が高まっているのは、主要企業の業績が伸びていることに加え、欧州経済にも安定化の兆しがうかがえ株高傾向にあること、さらには日本銀行やFRBの事実上のゼロ金利政策と量的緩和の継続が決定されていることにあの、アべノミクスプラス欧米経済改善の影響が、現在のわれわれの景況感に反映されていると言える。
さて、日本経済や世界経済の動向よりも、われわれが一番気になるのは、刀剣業界の景気の先行き見通しである。われわれの相場は、大きな経済情勢の動きに遅れて悪くなり、そして遅れて良くなるのが常であるかのように理解していたが、どうやら今回は過去のデータは既に役に立たず、ここ近年の景気変動については、経験則通りにはいかないということが言えるのではないか。
思い出されるのは、何と言っても平成三年のバブル崩壊である。そのときは、その後三年以上も大きな取引相場の下落は見られず、徐々に相場が下向いていったことを実感したが、実はその後景気は上向きと下向きを繰り返しており、従ってバブル崩壊とともに刀剣相場も壊滅的な下落の一途をたどるということはなかったのである。
このことから、刀剣相場は一般経済情勢に対して遅行性があると、われわれは認識していたようである。ところが、リーマンショック、サブプライムローン問題に端を発するアメリカ発の衝撃的な不景気風は、われわれの業界を一気に襲い、遅行性どころか、世の経済情勢と歩を一にして相場に大きな悪影響を及ぼしたのであった。
バブル崩壊から十八年を経たリーマンショックは、何故にこんなにも早くわれわれの業界に及んだのであろうか。それは取りも直さず、インターネットの普及・発達であろう。そして、それに伴う業界の質的若返りと、特有の閉鎖性が薄れたことによるものである。これらの要因により業界は情報伝達を早め、他業種、他社会並に景気の情勢をリアルタイムで共有することになったのである。それ故に、現在の経済状況はすぐさまわが業界に実感として及んでおり、決して遅れてはいない。
とは言え、業界の交換会で取引相場が少し上がったように感じるのはまだ早計で、良いモノから上がり、悪いモノから下がるのは過去の通りであろう。いくら交換会会場が品薄とはいえ、人の欲しがらないモノは依然として価格は低迷しており、顧客に向きそうなモノに限ってやや上昇感が見られるのみである。
われわれの取り扱う刀剣等は、株価のような上下の動きはなく、実需に基づく要・不要の相場である。この景況感の好転に乗じて高くても良品を求め、顧客に推奨して需要を喚起することこそ商売の常道であの、この変動期を決して見逃してはならない。肌で感じる通りに行動すべきであろう。