刀剣界ニュース

製鉄から作刀まで実地体験も交えて理解する

七月二十七日から八月二十六日まで、静岡県三島市の佐野美術館において第三回「日本刀の匠たち―私の最高傑作」展が開催された。
 同美術館は平成十九年より刀剣に携わる職方の団体「たくみ会」と共催で、日本刀の技を継承し新たな創造の世界へと精進する刀工たちと、それを支える刀職たちの作品発表の機会を増やすために「日本刀の匠たち」展を開催してきた。
 本展覧会では刀工三十二名、職方九名が自ら選んだ傑作を出品、さらに今回は特別展示として、昨年他界された刀身彫刻の苔口仙琇氏の作品が集められ、合わせて八十五点が展示された。
 優れた特別展を開催することで知られる同美術館では、同時に新たな愛刀家の育成、啓蒙を目的に数多くのイベントが例年多数企画されており、本年も体験講座として刀工が作った小刀に土置きし、焼入れを行う「小刀の焼入れに挑戦」、五寸釘を鎚で叩いて伸ばし、砥石で研いでペーパーナイフを作る「五寸釘でナイフを作ってみよう」、和室で日本刀を鑑賞する「日本刀を持ってみよう」、日本刀を保存する上で欠かせない手入れの方法を学ぶ「日本刀の手入れ講座」など、多彩なイベントが行われた。
 圧巻だったのは「日本刀公開製作―砂鉄が日本刀になるまで」と「職方公開製作」。両公開実演は、イベントの口切りとして二日間にわたって行われ、製鉄から鍛錬・研磨・鞘製作・刀身彫刻・鎺はばき製作・柄巻きまで、日本刀製作の流れを包括的に鑑賞できる大変貴重な機会となった。
 初日には伊藤重光刀匠が同美術館駐車場に炉を据え、砂鉄と木炭を交互に炉に投入し、吹子で風を送って鉧けら(鋼の固まり)を作る「たたら製鉄」を操業。現在では滅多に見ることが適わないだけに、遠方からの来館者や親子連れなど多くの見学者が集まった。
 伊藤刀匠が製作した自家製鉄炉に大量の木炭と砂鉄が投入され、吹子で送風が始まると力強い炎が巻き起こり、その火力の強さに木炭はどんどんと減ってゆき、新たな木炭と砂鉄が次々に投入されていった。
 その後、伊藤刀匠の解説が始まると、見学者からは「どこの砂鉄を用いているのか」「温度の調整はどのようにして行うのか」「いつごろからこのような製鉄が行われていたのか」など多くの質問が寄せられた。また希望者には吹子の操作や、木炭と砂鉄の投入を体験することが刀匠から提案され、多くの方が初めての吹子の感触や炉の熱気に驚きながら楽しんでいた。
 当日は三五度を超す炎天下にもかかわらず、二時間以上にわたる操業の間、見学者は途絶えることがなく、炉の中から真っ赤な鉧が取り出された後も質問は続いた。伊藤刀匠は、こちらも驚嘆すべき体力と使命感でその質問一つ一つに丁寧に答えられており、大盛況であった。
 筆者も当日、吹子の操作を体験させていただいたが、一見単純作業のように見えて実に難しかった。押し引きの切り返し、角度、速度のすべてがバランスよく行われないと空気を一定に送れない。刀匠はそれを行いつつ、炎の音、匂いから炉内の鋼の状態を察知し調整する必要があるとのことで、一つ一つの動作に心技体がこもった、まさに職人芸であるという事実をあらためて認識させられた。
 二日目は天候が不安定だったが、滞りなく開催された。
 前日に製造された玉鋼を鍛接し、折り返し鍛錬に入る。炉から取り出された玉鋼はまさに黄金に輝き、鎚で打たれた瞬間響き渡る音は、うだるような暑さを吹き飛ばすほど。時に表面のカスを飛ばすために、鎚を水に付け鋼を叩き、故意に水蒸気爆発を起こす。驚きとともに歓声が沸く瞬間である。
 前日同様に、希望者には折り返し鍛錬の先手として参加することができるということで、小学生から年配の女性までの数名が、一振の作刀過程に携わった。
 今回は時間の制約があるために心鉄は入れず、幾度か折り返し鍛錬をした後、素延べの工程に入る。ここからようやく日本刀の姿がわかってくる。切先の打ち出し、火造り、土置き、そして焼入れ。日本刀は焼入れをすることによって反りが付くという事実を皆が目の当たりにした。
 平造りの脇指の完成である。打ち下ろした作品は順に手に取って鑑賞することができ、感動の渦に包まれた。公開実演終了後も質問は飛び交い、二日目も大盛況のうちに幕を閉じた。
 作刀とは一般的なイメージ以外に、冶金学にかなう緻密な計算をされた上での技術から成り立っている。刀匠とは、古来の術を使う現代の魔法使いか。
 これらの展覧会やイベントは刀剣界の将来のためにも大変貴重な活動であり、佐野美術館には伝統の優れた技と心を広く紹介する企画を、これからも期待したい。(飯田慶雄・大平将広)]

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