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大阪歴史博物館「ヱヴァンゲリヲンと日本刀」展 ヱヴァンゲリヲンを通じて日本刀を若者へ

 七月三日から九月十六日まで大阪歴史博物館六階特別展示室において、特別展「ヱヴァンゲリヲンと日本刀」展が開催された。この展覧会は、一般社団法人全日本刀匠会事業部と劇場版アニメ「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」とのコラボレーション企画である。
 映画最新作「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」は昨年十一月に公開された。作品の監督である庵あん野の秀明氏はスタジオジブリの宮崎駿はやお氏の弟子であり、アニメファンの間ではカリスマ的存在でもある。最近では七月二十日に公開されて話題を呼んでいる映画『風立ちぬ』の主役の吹き替えも演じている。
 ヱヴァンゲリヲンとは何か。 
それは95年からテレビ東京系列(TXN)で放送された、いわゆるロボットアニメである。放送当時、平均七・一%という低視聴率ながら、放送終了後に斬新なストーリーが物議を醸し、賛否相半ばした。
 70年代の『宇宙戦艦ヤマト』、80年代の『機動戦士ガンダム』と並び、後のアニメへ大きな影響を与えた第三世代のアニメ作品でもあり、爆発的なアニメブームのきっかけとなった。後に映画化・漫画化・小説化・ゲーム化と、さまざまなメディアにその余波は広がり、二十年近くたった今もその人気は絶えない。
 果たしてなぜ、ヱヴァンゲリヲンはここまで人気なのか。
 十四歳の少年・少女が巨大人型ロボット(正確には人造人間なのだが)に乗り込み、正体不明の敵と戦うというありきたりなストーリーだが、登場するキャラクターたちの心理描写、細部にこだわったメカ造型、大胆な映像演出、そして誰も予想できない展開が現代の若者たちの心を鷲摑みにしてきたのだ。
 筆者はテレビ版の放送が終わった四、五年後にその存在を知り、当時中学生ながらもレンタルビデオ屋に駆け込み、全巻を観賞した。その衝撃はあまりに強く、今では立派なアニメオタクである。
 本展覧会に関しては、玉山真敏氏が既に『刀剣界』第七号に備前長船刀剣博物館での本展を、また第八号にてカタログを紹介されているが、今回はヱヴァンゲリヲンと刀剣の両面を知る私の視点からレポートさせていただければと思います。
 八月五日、大阪城の目の前にある大阪歴史博物館に赴いた。
 今回、一部を除いて展示作品のほとんどが撮影OKという珍しい条件だったため、午前中で仕事を切り上げ、カメラのボディと大量のレンズをカバンに詰め込み、意気揚々と新幹線に乗り込む。しかし連日の猛暑は残酷で、博物館前に到着した時点で、荷物の重さも加わって既に意気消沈。さして冷房の効いていないビル内をうろつき、エレベーターで六階に上がる。
 会場に入り、まず目に入るのがアニメキャラクターの等身大パネルとフィギュアである。日本刀の鑑賞目的のみで入場された方は、何て場違いな所へ来てしまったんだ、と思われるかもしれないが、アニメオタクなら迷わず並んで写真を一枚撮ってしまう状況だ。
 他に類を見ない日本刀の展覧会のエントランスだが、中身はしっかりしている。映画最新作の紹介のパネルと併せて、日本刀を鑑賞するのは
初めて、という方々のために、しっかりと刀剣の歴史、製作工程、刃文や地鉄、新作刀を用いた姿の変遷まで丁寧に解説されている。これは筆者が訪れた刀剣の展覧会の中で、一番わかりやすく、詳細に記載されていると感じた。
 奥へ行くとキャラクターをモチーフにしたオリジナルの日本刀や、「マゴロクソード」「ビゼンオサフネ」といった作中でヱヴァンゲリヲンが使う武器そのものを再現しているものまで、さまざまである。中には刃長が四尺近くあるものや、刀身に欄間透かしでキャラクターそのものを彫ってあるものまである。機械的なデザインの拵に収まった日本刀は、まるで2Dの世界からそのまま出てきたような異様な雰囲気を醸し出している。
 作中でカギとなる武器をダマスカス鋼を使って表現した全長三三二、重さ二二・二の二又槍「ロンギヌスの槍」も面白い。日本刀としての形を保ちつつ、アニメの世界を再現したこれらの作品は日本刀の新しい挑戦であり、両面を知る私は、その完成度の高さに驚かされた。
 筆者のようにアニメ・ゲーム・漫画で育った今の二十歳代の若者の中で知られる日本刀といえば、RPGゲームの中で出てきた武器で「コテツ」「ムラマサ」くらいなもので、実物は見たことも触ったこともないのが当たり前。まして浪費を嫌う今の若者が、一体どうして美術品に興味
を持つか。親から子へ日本刀が受け継がれ、自然にその文化を浸透させてきた時代は終わりを迎えつつある今、いかにして後世に伝えていくか。  「ヱヴァンゲリヲンと日本刀」展は巡回展で、初回の備前長船刀剣博物館だけでも約二カ月の会期中に四万七千余人が訪れたという。その後、愛知・広島・札幌・福岡、そして今回の大阪と巡回し、今後は九月二十一日〜十一月十一日岐阜県・関鍛治伝承館、十一月二十三日〜十二月二十三日(月・祝)東京・上野の
森美術館での開催を予定している。
 累計来場者数は、日本刀の展覧会で過去最高になるとの予想。恐るべしヱヴァンゲリヲン。(大平将広)

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