刀剣界ニュース

刀の魅力を 共に味わうために

かつて、東京国立博物館の平常展示室に並んだ名刀の前を素通りしていた私が、まさかまさか刀を扱う日が来るなど、夢にも思いませんでした。
 
渡邉妙子館長の下で一から刀の勉強が始まり、刀や刀装具の部位を表す名称(横手、区、鐺、栗形など)は、すべて初めて目にし、耳にする言葉でした。
 
皆さまよくご存じの通り、刀を学ぶには、刀そのものを見る目はもちろん、これまで積み重ねられてきた鑑賞の歴史や評価、作品が作られた時代の社会・文化・精神性など、本当にさまざまな知識が必要とされ、理解するのは容易ではありません。
 
それでも、折につけ皆さまの刀への熱い愛を拝聴していると、こんなにも情熱と時間とお金をつぎ込ませる刀の魅力とは何だろう?と興味が湧いてきます。まだまだ暗中模索といった感じですが、少しずつ刀を知って、早く一緒にその魅力を味わいたいと思う今日このごろです。
 
美術館に入って間もないころ、愛刀家の皆さまに刀をご覧いただく機会があったのですが、「うーん」「おー…」と感嘆詞が盛んに発せられる一口がありました。「そんなにいいですか」と尋ねると、「そりゃいいよ!」「このゴリゴリした感じ…」「健全だよね!」などなど。口々に語られる少し興奮気味なその褒め言葉もかなり独特で、あらためて未知の世界に足を踏み入れたんだとな、と思ったのも良い思い出です。
 
平成二十五年度は『刀剣界』の貴重な紙面で、当館で開催された「清麿」展、「兜KABUTO」展を度々掲載していただいたご縁で、このコーナーで取り上げてくださることになったそうです。広報にご協力いただいた皆さま、ご来館くださった皆さま、ありがとうございました。
 
この記事が掲載されるころ、既述の二つの展覧会は終了していますが、平成二十六年度、佐野美術館では「ゴリゴリ」した「健全」な一口「国宝太刀銘一」や、名槍「蜻蛉切」ほか重文の刀剣一点を含む展覧会を開催します。静岡県沼津市の実業家・故矢部利雄氏が、人との出会いによって、さまざまな美術品との縁を得て成されたコレクションを紹介する「ひとの縁は、ものの縁―初公開の矢部コレクション―」展(来年一月九日〜二月十五日)です。
 
近年公開されることのなかった刀剣類のほかにも、根来塗の名品や渡邉崋山などの絵画作品も出品されます。ぜひ「普段は刀にあまり興味がない」というご家族やご友人も誘って、伊豆への小旅行の予定を立ててみてくださいね。

■一筆啓上 
当コーナーでは若手刀職や刀剣商のご紹介が続きましたが、編集委員会にて、刀剣の展示会などで必ずお世話になる各美術館の学芸員の方々も紹介させてもらえればということで、今回寄稿していただきました。
 
志田理子(しだ・さとこ)さんは静岡県三島市にある佐野美術館の学芸員。二〇〇九年、東京芸術大学大学院美術研究科修了(日本彫刻史)。一二年に佐野美術館に就職。最近では渡邉館長とともに根津美術館で始まる清麿展に取り組んでいます。
 
人当たりよく、一見ほんわかした彼女ですが、実は筋の通ったところも感じさせるユニークな性格だと思います。
 
狭い刀剣業界だからこそ、次世代を担う若手のつながりが、こうしたご紹介の機会をきっかけに増えればと思います。
(大平将広)

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