刀剣界ニュース

全刀商の活動 大刀剣市「我が家のお宝鑑定」

「大刀剣市」のイベントの中ではすっかりおなじみで人気のコーナー「我が家のお宝鑑定」。ここは理事が担当する鑑定の当番だけで成り立っているわけではない。コーナー内で作業を助けてくれる人、お宝をお持ちになり順番を待っているお客さまを案内する人などがいて成り立っている。
 
それともう一つの話だが、当番で鑑定評価する理事たちは、エネルギーを使って評価を下しても自分の職場の利益にはつながらないのだから当然、葛藤もあるのだ。
 
さて今から十数年前の話。現在理事を務める持田具宏氏が、お客さまエスコート係に選出されたときのことだ。持田さんは杉江美術店の番頭を十年勤めて独立したばかり。社長の杉江雄治氏と言えば「組合が買い取り業務をするならば、それは民業への圧迫だ」と牽制したことで知られ、現在もその姿勢を貫くせいかどうかはわからないが、大刀剣市への参加には前向きではない。
 
俺はいいことを思いついたぞ。ヒッヒッヒッ、持田さんを困らせてやる。 「持田さんがお宝鑑定の手伝いをすると杉江さんが知ったら涙を流して……」悲しむね、と続けようとしたが、冥賀吉也氏の言葉がそれを遮った。 「杉江さん喜ぶぞー。自分の店から独立した者が活躍するのは誰でもうれしいものなんだよ」。アチャー、だめだ、こりゃ。ポジティブに正論で来られちゃった。
 
一昨年から俺にもここでの鑑定評価当番が回ってくるようになったが、現在はマネージメントに大林幹夫氏と、エスコートに中村栄次氏を迎えている。
 
去年、ある方が持ち込んだ鐔に大林さんの顔がほころんだ。「ほら、僕と学生時代のジョーちゃん(俺のこと)を結び付けてくれた鐔だよ」「本当だ。三十五年前だよね。大林さんも若かったね」。
 
こちらの盛り上がりをよそに、同じく当番の吉井唯夫理事と当の持ち主は言葉を失っていたが、その後ウケてくれる。何せコーナーの名前はテレ東の人気番組からインスパイアされているのだろうから、楽しさがあっても許されるよな。「ドゥルルルルルジャーン(口ドラム)ウン万円です」と値段カードを翻したら、もっとウケてくれただろうか。
 
この鑑定評価業務が、組合とウブ品の大きな接点になっていることは間違いない。しかし、俺は断言できる。ニホンウナギもクロマグロも絶滅に向かっているのと同じように、ウブ品もやがて間違いなく枯渇する。それを肌で感じる現在、冒頭の杉江さんの言葉は重みを増してくるではないか。
 
では、組合の一鑑定評価当番理事としてどうしたらよいかというと、組合員個々を生かすための組合という意識の下に、刀剣類・刀装具類の持ち主と接する業務という個々と同じステージに降りたとき、謙虚さが必要ではないかと考える。
 
自分の職場での癖で、ついつい魅力ある品の持ち主を帰したくないゆえにしつこく引き止め、「重いでしょう?置いて帰ったら?」と駆け引きしたり、「これは焼け身だぜ、価値ないぜ」などとケナしたりしてはならないのだ。組合を背負っているのだから人を不愉快にさせず、笑顔で「良いものですから、大切にお持ち帰りください」「名物刀剣と同じように尊ばれたものです」と言わなければ、と思っている。
 
最低でもそこは守らないとな。
腰の低かったあの初代理事長、お化けになって俺に憑依してくれないかな。
 
さて、今年の我が家のお宝鑑定の業務報告は、来号の赤荻稔理事の記事を待とう。
(綱取譲一)

Return Top