刀剣界ニュース

イタリアで注目される日本刀 吉原刀匠が国立美術館に作品を寄贈

物作りの伝統を持つイタリアには、日本刀のファンが多い。

 
吉原義人刀匠と伊の付き合いも二○○五年、日本文化交流会招待によるトリノでの焼入れ実演から始まった。その後三回、十三〜十四世紀に建立された美術館や市庁舎の中庭で日本刀製作実演が行われ、二○○七年には、国立美術館バルジェロ館長の要望で前年度焼入れした脇指を寄贈、記念式典が行われ、日本刀の展示場も新設された。
 
そして、これまでの実績もあって二○一四年九月に開催された「第一回アート・イン・メタルショー」では、「世界の第一線で活躍するナイフ・刃物アーティスト十五人」の一人に選ばれ、日本刀の美しさと面目を披露した。
 
愛刀家が集まるINTK(イタリア日本刀剣協会)は、百名の会員を持つ。トリノでの実演を見ていた会員たちは、翌二○○六年度、本部のあるフローレンスのバルジェロ国立美術館での実演に、再び吉原刀匠を招待した。
 
焼入れは、各地から集まった会員が見守る中、鎌倉時代に建立(一二六一年)された元司法庁の中庭で行われた。一部始終を見ていた館長の「その刀を当館に寄付していただけませんか」という問いに、刀匠は「喜んで。来年研磨して持ってきます」と答えた。
 
バルジェロは、ルネサンスの巨匠ミケランジェロやドナテロの作品が並ぶ美術館だ。
 
翌年の式典では、市の国立美術館ディレクターが「これを機会に文化交流ができれば」と述べ、刀匠は「日本刀は武器として始まりましたが、時代を経て日本人の精神文化となりました。機能を追求した究極の美こそ日本刀」と強調。武器武具の部屋に新設された展示ケースには、氏の脇指のほかに、同氏の訪問で百二十年ぶりに蓋ふたが開けられ、新たに研磨された、明治時代に海を渡った水心子正秀や大慶直胤の刀剣が展示された。
 
三度目の実演は、二○一二年度の第十五回WKC(世界剣道チャンピオンシップ)と同時開催。三日間にわたって実演された「火造りから焼入れまで」で、協会の役員は、「剣道のルーツは日本刀」と大いに歓迎。刀匠は季節外れの激しい雨風が吹き荒れる悪天候の中、十三世紀に建立されたブロレットの中庭で焼入れを完遂した。
 
四度目は二○一三年度、刃物の街として知られるスカペリアでの焼入れ実演。駆けつけた市長は「伝統的な物作りを見せていただくことは、この地域にとって大きな励みになります」と挨拶。
 
伊は優れた職人集団の国であるが、近年は廉価な労働力を求めて、刃物を作る工房が著しく減少している。市長は「この城の中には刃物の歴史博物館」があります。この中にぜひ日本刀のコーナーを設けたい」と語った。
「日本刀の世界が少しでも広がれば」という思いで実演を続ける吉原義人刀匠。イタリアで日本刀の世界は確実に広がりつつある。
(サンフランシスコ在住、カップ啓子/写真ジョージオ・モビリ)

Return Top