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67回 を迎えた「清麿会」 併せて在りし日の諸先輩を偲ぶ

清麿の眠る宗福寺は、国立競技場にほど近いJR信濃町駅から徒歩七、八分の所にある。外苑東通りを四谷三丁目方向に行き、四谷左門町の信号を右折して四百メートル入った右手にあるのが、この禅寺である。
 
寺に面した通りは昔のままの二間幅で、現在は一方通行になっている。両側には数多くの寺が並ぶ、いわゆる寺町である。
 
清麿の命日である十一月十四日は今年も好天に恵まれ、暖かく穏やかな一日であった。準備が早く整い、開会まで時間があったので、深津尚樹君の誘いで「首切り朝右衛門の墓に行ってみましょう」ということになり、清麿会を主宰する柴田光隆社長をはじめ関係者で歴史探訪の散歩に出かけてみた。
 
宗福寺の斜め前の戒行寺には、「鬼平犯科帳」で有名な長谷川平蔵の供養碑があった。近年新しく建てられたもので、幅一メートル、高さ一・八メートルもあり、さすが火付盗賊改にふさわしく立派であった。
 
すぐ隣の勝興寺には、本堂横に並んで六代目山田朝右衛門吉昌と七代目山田浅右衛門吉利の墓があった。百七十年ほどの星霜を感じさせる趣ある墓である。
 
驚いたことに、本堂の正面両脇の径一メートル超の大きな鋳造水槽には、山田家の家紋である柊紋が大きく浮き彫りにしてあった。しかも側面には、吉昌が嘉永元年七月に満六十一歳を迎えて剃髪し、松翁と号した記念にこれを寄進した旨が誌されている。山田家が当時、いかに裕福で、かつ信仰心が厚かったかを物語っている。
 
勝興寺の前の西応寺には、剣客として有名な榊原鍵吉の墓があり、これにもお参りした。
 
このように、宗福寺の周辺だけでも歴史上の人物がこれだけ眠っている。清麿会に出席された折にはぜひ訪れ、参拝されることをお勧めしたい。
 
清麿の墓については、本堂前の現在地に設置されたのがいつか定かにしないが、三度移ったと聞いているので記しておきたい。
 
最初の墓は、本堂の裏手の柿の木の下にあったようである。二度目の墓の位置は、現在の墓の一、二間先にあったという。ともあれ、明治二十一年五月に刀工の卍正次が中心となり、ほか四名とともに建立したことは、墓石の裏側に誌してあるのでわかる。
 
高さ約四尺の赤みがかった自然石の表には「大道院義心居士山浦環刀名源清麿墓」と鮮やかな筆跡をもって刻されている。
 
清麿の墓の隣には、寄り添うようにして、戦前・戦後を通じて清麿の収集に資産を投じた紙問屋の主人、斎藤一郎翁の墓が建つ。生前、好きで好きでたまらない清麿の眠るそばに、あえて自らの墓を置いたのである。墓石中央に「斎藤一郎之墓」と誌し、脇にやや小さく「清麿似にほれたる保礼太流」と添えているのがいかにも斎藤さんらしい。
 
私がまだ学生のころ、清麿会でお会いすると、「冥賀君、わしがあの世に逝ってもここにおるから、清麿会にはぜひ来てくださいよ」と言われたことが思い出される。小柄で白髪の、いつも笑顔が素敵な愛刀家であった。
 
清麿の墓の右側には墓誌が建ち、その横に並んで内田疎天先生と水心子正秀の墓がある。水心子の墓はもともと千住の方にあったものを、犬塚徳太郎先生が補修され、ここに安置されたと聞いている。
 
今年の清麿会には、正行銘で大切先の武器講打ちの刀、天保十五年の信州小諸打ちの刀、金象嵌銘ながら藤代松雄先生極めの刀、門人の信秀・清人のほかに、安綱・正宗の名刀が出品され、皆さん大満足の様子であった。
 
卓話では、山口県周南市から毎年必ず出席される国広浩典氏の話は興味深かった。天保十三〜十五年、清麿は萩に滞在しているが、これは従来、天保十年に始まった武器講からの逃避行と伝えられてきた。しかし大きな誤解であって、実際は、当時の萩藩では軍備の充実に力を入れていて、刀剣製作技術を向上させるため、江戸当役用談役の村田清風より萩に呼び寄せられたものである。村田清風記念館には清麿直筆の書状や、それに類するものも残されている。

この国広氏の熱っぽい話を聞いて、一番喜んでいたのは、清麿さんではなかったろうか。
 
午後三時からは読経、その後、本堂前にて記念撮影をし、墓前へ酒や線香を手向けた。
 
直会では、柴田社長の挨拶、園平治氏の献杯と続き、その後は懇親の楽しいひとときを過ごし、夕刻五時に散会した。
 
今までの清麿会では、楽しい思い出がたくさんある。福永酔剣先生や辻本直男先生からは、素晴らしいお話を聞かせていただいた。清麿会でなければ見られない名刀も数々あった。
 
今回で六十七回を迎えたという。
 
初回は昭和二十三年というから、刀剣界の戦後そのものでもある。故柴田光男会長が長年お世話をされ、その後を柴田光隆社長が引き継いで今日に至った。ご苦労は計り知れず、参加者の一人として厚く御礼申し上げたい。 「清麿会は独り清麿だけのためではなく、古今の刀工や、刀剣界に尽力され、現在鬼籍に入られた諸先生、諸先輩も同時に供養させていただいているのですよ」と語っておられた柴田会長の言葉を思い出す。
 
清麿会は誰でも参加できる(ただし会費制)年に一度の楽しい会です。ぜひご参加を。

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