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「もののふの美と心― 八代城主・松井家の 刀剣と刀装具 ―」開催の意義

松井家は室町時代、足利将軍家に仕えた武家である。江戸時代には肥後細川家で代々家老職を務め、正保三年(一六四六)から明治三年(一八七〇)まで、熊本城の支城である八代城を預かった。当家には、武器・武具、能面・能装束、陶磁器、書画、古文書など一級の文化財が伝来、現在は一般財団法人松井文庫が所蔵・管理している。
 
平成二十六年十月二十四日から十一月末日にかけて当博物館で開催した展覧会「もののふの美と心―八代城主・松井家の刀剣と刀装具―」は、松井文庫が所蔵する二十七口の刀剣および付属の拵を紹介するものであった(本紙前号参照)。松井家の刀剣が一般公開されるのは実に二十年ぶり、地元八代では初めてであり、全国の刀剣愛好家からも多くの反響をいただいた。
 
松井家伝来刀の魅力は、宗近や正恒・景光・雲生・行光など、名刀が揃っているということである。美術作品としての価値は、本紙ご愛読の皆さまには説明するまでもないだろう。むしろ興味深いのは、松井家という家格に見合う刀剣がいかなるものだったのか。当コレクションは、それを知る手がかりになるということである。
 
残念ながら、松井家伝来刀の由来は不明だが、「松井家譜」には歴代当主が拝領した刀剣の記録が残る。例えば、松井初代康之は、軍功の褒賞として足利義昭から「朱柄の槍」(伝存)、秀吉から「國重の脇指」、家康から「志津の脇指」を拝領している。逆に、大名の八代光駕に際しては、拝領した刀剣を再び献上することも少なくなかった。拝領と献上を繰り返す武家の刀剣事情が見て取れるのである。
 
当コレクションのもう一つの魅力は拵。松井家の刀剣は古刀が多いが、付属する拵の多くは、江戸時代、肥後の職人たちに依頼して作らせた「肥後拵」である。肥後金工による象嵌細工はよく知られているが、青貝微塵や鮫皮研出、朱笛巻塗といった鞘も素材の魅力を生かした細工が美しい。職人たちの確かな技に加え、無駄な装飾を省いた実用的なデザインとシックな色合い、まさに「侘び」の美学である。
 
これは利休七哲の一人、細川三斎のプロデュースにより生まれたもの。茶の湯のみならず、武器や武具にも、利休の美学が反映していたのである。
 
一般財団法人松井文庫は、昨年創立三十周年を迎えた。これを記念して、展覧会では松井家当主が天下人から拝領した名品、松井家と交流のあった宮本武蔵ゆかりの品々も紹介。八代の誇る武家文化コレクションの存在意義を内外に知らしめるいい機会となった。

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