昨年四月二十八日から六月三日まで、東京の練馬区立石神井公園ふるさと文化館(練馬区石神井町五-一二-一六〇三-三九九六-四〇六〇)においてコレクション展が開催された。その名称は「刀装具―中山彬コレクション―展」。
ある昼下がり、私は一枚のポスターに出くわした。それには鐔の写真が大胆に使われており、一目見て刀装具の催事であることがわかる。『刀剣界』の編集委員として活動している私は、全国の催事について比較的多くの情報を把握しているつもりだった。しかし、住まいの近くで行われるにもかかわらず、この展覧会についてはまさに寝耳に水。すぐに会場である石神井公園ふるさと文化館に連絡を取り、詳細な情報をお尋ねした。
その日は、妻とおやつにジェラートを食べに行こうと約束をしていたのだが、妻には謝って予定を変更し、すぐに見学にお伺いすることにした。
開放的な空間に多くの鐔や目貫などの刀装具が並び、簡単な刀剣・刀装具の解説パネルまで設置され、来館者にとって大変見やすくわかりやすい展示がされていて、しかも入場料は無料。なんて来館者に優しい催事なんだ!と私は驚愕し、館長の渡辺美代子氏に話を伺った。
すると、今回の展示品はすべて練馬区在住の中山彬氏から同区に寄贈された刀装具であり、広く刀装具の美しさ、素晴らしさを伝える目的で開催したことを教えていただいた。百二十点にも上る数の刀装具をすべて寄贈!
私は再度驚き、それらを寄贈された中山彬氏なる方にぜひお会いしたいと思った。
その後、願いかなって中山さんにお目にかかることができた。また、収集家として刀装具についての思いを語っていただき、『刀剣界』に掲載することも了承していただいた。
今からさかのぼること四十年、結婚のお祝いに岳父から短刀を贈られ、以来、中山さんは刀剣趣味の世界に足を踏み入れたという。刀剣の本を買い漁り、趣味を深めていったが、サラリーマンの中山さんには刀剣収集の敷居は高い。
しかし、そのうちに刀装具にも興味が沸いてきた。調べてみると、これならば自分でも手が届きそうだ。早速刀剣店を訪れた。そこで鐔に出会い、刀装具の趣味が始まった。手にしてみると、あらためてその奥ゆかしさ、意匠の素晴らしさに楽しさを覚え、次の品物を求めて刀剣店へと再び出かけた。
最初のうちは次の購入のために下取りなども考えたが、中山さんには一点一点に思い出があり、それはやるまいと決意したそうだ。
コレクションが増えていくと一つの目標ができた。百点収集したら、本を出版することだった。しかし、それもなかなか難しかったので、先延ばしになっていた。気付くと定年を迎え、孫が小学校に通っていた。自分のコレクションをこれからどうしていくか悩んだ。売却したのでは、必死な思いで収集したコレクションがバラバラになってしまう。それはやっぱりしたくなかった。自分の集めた日本の伝統工芸を、多くの人に見てもらいたい―それが中山さんの真意だった。そこで、地元の練馬区に寄贈することにした。
寄贈するとき、区の担当者に「日本が誇る伝統工芸を、ぜひ広く伝えてください」と要望を告げた。それを受けた練馬区では、学芸員が刀剣・刀装具に
ついて勉強し、準備を重ねてきた。約一年をかけ、ようやくコレクション展開催にこぎつけた。
中山氏は言う。「これを機会に、若い世代が日本の伝統工芸の素晴らしさを知ってくれれば、私が収集したコレクションが生きる」と。素敵なコレクター精神に学ぶ点は多い。(宮澤琢)